研究課題/領域番号 |
20K03062
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研究機関 | 筑波技術大学 |
研究代表者 |
新井 達也 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 教授 (70331303)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | eラーニング / 聴覚障害 / 高等教育 / 数学教育 |
研究実績の概要 |
本研究は,高等教育機関に学ぶ聴覚障害学生を対象としたeラーニング教材の開発と評価を目的としている.2020年度に試作したリメディアル数学のeラーニング演習教材を2年間で30名を超える聴覚障害学生に提供した.本教材は,個別最適な問題提示を目指しており,各学生が自分に適した問題群に取り組めるように工夫されている.用意した演習問題は500問以上あり,コンテンツの不足を訴える利用者はいなかった.また,自室において自分のペースで学習を進められることについて好意的な意見が挙げられた.今後は,コンテンツ内容の精選とより効果的な問題提示方法について検討していく予定である.さらに,2021年度は,字幕をベースに学習できるオンデマンド教材(ノベルゲーム型教材)を試作した.聴覚障害学生に対し,eラーニング用の動画コンテンツを提供する際には,通常,説明映像に沿って字幕を付与し内容の理解をサポートするが,映像の中で指示語が多用された場合などは,字幕と映像の内容を適切に対応付けて理解することは容易ではない.そこで,本教材では映像に対応した字幕を文単位でリスト化し,字幕リストの各文章を選択することで映像の検索ができるように工夫されている.それによって,通常の動画コンテンツで使用するシークバー等を用いることなく,映像内の見たい位置を簡単に探し出すことができる.この教材を用いて,聴覚障害学生を対象に,従来型の動画視聴型オンデマンド教材との比較のための予備実験を実施した.アンケート結果からは,検索が容易,内容をまとめて読める,自分のペースで学習を進められる,などを理由に本教材に対して好意的な意見が得られた.今後は,学習進度に応じた分岐やコミュニティー機能などを実装させ,より個に応じた学習を実現する教材の提案を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,聴覚障害学生を対象とするeラーニング教材としての動画コンテンツの作成に向けて,講義で利用される字幕の違いによる学習効果への影響や受講者の視線行動,講師の行動と受講者の視線行動の関係について定量的に分析し,いくつかの知見を得た.具体的には,(1)図や式を付与した字幕(ハイブリッド字幕)が,通常字幕と同等以上に授業内容の理解を助けること,(2)ハイブリッド字幕・通常字幕に共通して,注視対象(講義映像,字幕映像,配布資料)間の受講者の視線移動は循環型ではなく,講義映像を中心とした往復型の視線行動であること,(3)講師の板書行動に応じて,受講者の字幕映像への視線移動は減少し,配布資料への視線移動が増加するが,その傾向は通常字幕に比べてハイブリッド字幕において顕著であること,などである.今後,これらの知見に基づいて,eラーニング用の動画教材の作成を検討していく予定である.また,数学のリメディアル教材として,スモールステップで数学の演習問題に取り組めるように工夫した個別学習教材を試作し,30名を超える聴覚障害学生に提供した.自室において自分のペースで自身に適した問題群に取り組むことができることについて好意的な意見が得られた.用意した問題数は500以上あるが,今後は,コンテンツ内容の精選と問題提示の自動化を検討していく予定である.さらに,個に応じた学修をサポートするために,ノベルゲーム型オンデマンド教材を試作した.前述のように,この教材は,映像コンテンツに対応付けされた字幕リストの操作に応じて,映像コンテンツを制御する方法で内容の理解をサポートする.従来型の動画視聴型オンデマンド教材との比較のための予備実験の結果,検索の容易さや自分のペースで学習を進められることなどを理由に,ノベルゲーム型オンデマンド教材への好意的なコメントが複数得られた.
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今後の研究の推進方策 |
リメディアル数学のeラーニング演習教材を作成し,30名を超える聴覚障害学生に提供してきた.高校数学の指数・対数・三角関数の範囲を中心に500問以上の演習問題を用意したが,今後も継続的に範囲を広げてコンテンツを作成する予定である.一方で,問題数を増やすことが,ドロップアウトの増加につながらないような工夫を検討する.上述のノベルゲーム型教材と通常の動画教材を比較するための予備実験を通して,検索のための操作が容易であることや自分のペースで学習を進められることなどを理由にノベルゲーム型教材の優位が示唆された.eラーニング演習教材にノベルゲーム型教材の手法を組み込むことで,個々の学習者の学習進度に応じた内容に取り組めるようにすると同時に,ドロップアウト防止のために,学習者同士で情報提供したり,ヒントを出し合ったりできるようなコミュニティー機能の実装等についても検討していく予定である.また,ノベルゲーム型オンデマンド教材と通常のオンデマンド動画教材の比較実験の準備を進め,ノベルゲーム型オンデマンド教材の有効性をより細かく検証する予定である.
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