本研究は、視覚障碍者の行動認識支援において、近接空間の理解を促進するための携帯端末による支援手法を提供することを目標にしている。また、外的要因の分析に加えて、内的要因も考慮し、歩行時の偏軌傾向を含む様々な偏行状況を修正する支援手法を構築することを計画した。 計画の具体的な内容は、(1)視覚障碍者に見られる偏行状況を修正する手法の確立、(2)学習支援も含めた様々な行動認識支援手法の確立、(3)行動認識を訓練するシミュレータへの展開である。本年度の計画では、(3)行動認識を訓練するシミュレータへの展開を目指した。 結果としては、(1)と(2)の計画に関しては、前年度までにシステムの試作を行い、視覚障碍者の偏行状況の修正に有効な手法の開発の可能性が確認できた。しかし、計画の(3)については、シミュレータへの展開までは達成できなかった。代わりに、実際の歩行環境において歩行支援を行うため、手に持ったカメラで撮影した周囲の歩行者をAIを用いて検出し、検出した歩行者が歩いた場所を安全な歩行可能領域と定義し歩行支援を行う手法を検討した。また、利用者を検出した歩行可能領域に向かわせるためには、カメラをその方向に向けることで進行方向を示す。その方法として、カメラが撮影した進行方向画像の中心と画像内の歩行可能領域との距離を求め、歩行可能領域が画像の中心に来るように、音の高低で視覚障碍者に知らせ、カメラを適切な位置に向けるシステムの試作を行った。 以上の結果から、視覚障碍者の近接空間の理解や歩行時の偏行状況修正に向けた支援手法と歩行支援システムの開発が行えたことで、目標実現に向けた一歩を踏み出せた。将来的には、安全に歩行訓練が行えるシミュレータの開発を含め、さらに研究と評価を行い、視覚障碍者の行動認識支援においてより高度なサポートを実現することを目指す。
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