研究課題/領域番号 |
20K03107
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研究機関 | 松蔭大学 |
研究代表者 |
大沢 裕 松蔭大学, 公私立大学の部局等, 教授 (60233095)
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研究分担者 |
立野 貴之 松蔭大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (50564001)
野末 晃秀 松蔭大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (10849342)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | AR・VR / 保育者養成 / 能動的な思考 / 教育プログラム開発 / AI / 教材開発 |
研究実績の概要 |
保育所・幼稚園(以下、保育施設)の現場では、事故が後を絶たないのが現状であり、厚生労働省及び文部科学省は保育士・幼稚園教諭(以下、保育者)の資質能力の向上を求めている。保育者は、360度に近い視点を意識し周りの保育者と連携して、子どもを観察することが必要である。また人材が少ない保育施設では、新人保育者であっても能動的に思考し行動することが求められる。 これまでの申請者の保育者教育における一連の研究では、仮想現実(Virtual Reality: 以下VR)を利用した学習環境は、リスク管理に対する意識を高める学習として有効であることを明らかにしてきた。 昨年の実績としては、経験のある保育者が無意識に行ってきた潜在的な知見や判断を体系化し、拡張現実(Augmented Reality: 以下AR)で表現した学習環境を実現するための作業を行なっている。具体的には、ゲーミフィケーションによる学生の能動的な思考を促進できる教材を開発・評価に着手し、経験豊富な保育者が共通にもつリスク回避の視点を洗い出している。この視点に基づき、先の展開の予測しにくい幼児の行動からリスクの可能性を確定し、能動的な思考を促す教材としての現場の動画作りの情報を収集している。VR動画を利用し保育施設を再現した教育の事例では、複数人が同期的に連携した体験ができる環境の事例がないため、本研究では、360度の視点の動画の中から幼児の行動を抽出して教材をまとめることを視野に作業を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず以下の方法で、防犯カメラの動画、Web上に存在する動画、既存のDVDの動画、この3点を元にリスク発生の予兆となる特徴を抽出し、幼児の行動に特化した分析を行った。そしてこのことにより、教材の質を高める作業が進行中である。 具体的に行なった作業は次の通りである。①幼児の日常の行動を記録した動画から保育活動のリスクのレベルを記録、②視線追跡を利用し、保育者が画面のどこを見ているのかを随時記録、③「①②」から抽出されたリスク場面の特徴分析を行い、AI学習用データを作成、④「③」を保育者データとしたAIの学習、⑤保育施設で撮影した数日間の360度動画をAIで識別させ保育者の知見と比較。 本研究では、幼児の行動は成人と異なるため、多くの保育者から教材データの作成協力を得る必要があった。さらに、①②の作業においてわかりやすく直感的なインタフェースを導入する必要があった。これは、分担者が開発した保育者の学習支援システムを利用した。このシステムは、撮影した現場の動画を確認しながらリスクがどの程度かをタイムラインで記録しておくことが可能である。また、AIによる抽出場面と、経験ある保育者と教員が抽出する場面の類似性を比較し、教材の評価を行う段階である。2020年度の後半から2021年度の前半にかけての授業設計の仮授業モデルの開発についても、現在着手しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降には、ゲーミフィケーションを利用した仮授業モデルの実践調査と分析、また、開発するARの学習環境の検証を複数回に渡り実施し、開発と検証の過程で問題発見と改良の相互作用を繰り返し、学習環境の質を高めていく。この理由は、現時点を最新とする一時点での分析に加えて、時系列の変化に注目する分析にも重点を置くためである。授業設計と学習環境の開発は2022から2023年度を目途に完遂する。なお、各回で学生だけでなく保育者も分析対象にする実践と、学習環境が能動的な思考に与える影響の調査を並行して実施する。そして、最終年度である2024年に開発した教育プログラムを、大学の授業と保育施設の新人研修で効果を検証する。検証では、15人程度の実践授業を最低4クラス以上で行い、質問紙のデータを収集、参加者へのインタビューから多面的な分析を行う。 各年度に、保育者に対する追加調査、経験のある保育者の気づいたリスクの抽出と動画の拡充、AIの精度向上、360度動画教材の評価を必要に応じて実施する。なお、本研究が計画通り進まない場合は、頻繁に研究会に参加し進捗を速報的に発表することで、本計画の軌道を確認し、広くの研究者や保育者から専門的なアドバイスを受ける。 以上のような計画において、ARの技術とゲーミフィケーションの有効性、保育者データを学習したAIに抽出させた360度動画教材の妥当性、能動的に思考させる方略に着目した教育プログラム実践の信頼性を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウィルス感染のリスクに伴い、主として、当該年度に計画していた保育現場での幼児の日常の行動の記録をする活動が十分に行なえなかったためである。また本研究に関する2本の学会発表は、論文集に掲載する形となったため、当該年度の学会旅費が不要となり、実験参加者への謝金、視線追跡調査委託費用も次年度へ繰り越す必要が出てきたためである。 2021年度は、保育現場での記録活動調査、視線追跡調査委託等を行なうことになる。このため2021年度は、2020年度に使用する予定であった経費が必要になる。また2021年度は当初より計画されていた、ゲーミフィケーションを利用した仮授業モデルの実践調査と分析、また、開発するARの学習環境の検証を複数回に渡り実施し、開発と検証の過程で問題発見と改良の相互作用を繰り返し、学習環境の質を高めていく。
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