研究課題
本研究課題では、早期一貫型高等教育機関である高専の学生を対象に、サイバーセキュリティ教育を意欲的・効果的・継続的に行うための新しい形のトップダウン型教材を開発し、学習意欲に寄与する“没入感の深さ”と、それに基づく教育効果を測定することを目的として、教材開発を行い、教育効果の測定方法の確立を検討する。研究の初期段階として、高専における1年間の講義の中で、学習者が自らサイバー攻撃を体験し、同時にその対策を施すことが可能である教材を体感してもらい、課題達成度、スキル習得度、課題の難易度評定、内容の興味深さ、具体的な獲得スキル、自身の取り組み度を評価してもらった。評価結果の分析は、次のステップである“没入感の深さ”の計測に関わる項目の抽出・検討へつなげる。また、開発した教材を使用した講義の受講の前後において、サイバーセキュリティの知識体系をもとに設定した、知識・技術レベルに関する5段階の自己評価を行っており、教育効果の分析を可能としている。教材開発面では、本研究課題遂行以前より開発が完了していた企業が提供するWebサービスへのサイバー攻撃の基礎を体験・学習できる単独項目によるコンテンツと、これら単独項目を複数組み合わせて、短い攻撃シナリオを作成し、システムへのサイバー攻撃の一連の流れ(偵察・侵入・潜伏)を学習できるショートシナリオコンテンツに加え、複数の単独項目コンテンツの開発、ショートシナリオコンテンツの改良を行い、実際に講義にて使用し、教育効果計測を実施した。準備段階の検討として実施していた高専教職員(高専生と同様の学習傾向特性を持つため“没入感の深さ”と教育効果との関係を検討可能)への教材適用とその教育効果測定では、セキュリティに関わる法律の知識、システムが持つ脆弱性に関する知識・技術の向上と定着が確認され、高専生に対する教育効果の分析手法確立への足掛かりを得た。
2: おおむね順調に進展している
学習意欲に寄与する“没入感の深さ”と、それに基づく教育効果を測定するための評価項目を検討することができた。開発済みの教材に加え、新たな単独項目コンテンツを複数開発することができ、また、ショートシナリオコンテンツの改良を行い、いずれも、サイバーセキュリティの講義にて使用することができた。理想的には、ショートシナリオコンテンツを組み合わせたロングシナリオコンテンツの開発に着手でき、ある程度開発が進んだ形の教育コンテンツを購入したサーバに搭載し、同一の仮想空間内練習場において、攻撃者サイドを体験可能な学習者と、サービスを運営し攻撃対策としてサービスを監視しているサイドを体験可能な学習者同士が、リアルタイムでの攻防を体験学習できる状態へ進めたかったところではある。しかしながら、ロングシナリオコンテンツの開発着手にあたり、教育効果測定手法の検討と教材開発を進めていった際、研究課題遂行において、“没入感の深さ”とモチベーションや満足度についての指標化の検討とその適用に関して、より適切な構成への向上の可能性と、それに伴うより適切な参加人数やコンテンツ内の学習要素の構成の再検討の必要性、加えて申請者の大幅なスキルアップ(知識・技術の両側面)により、当初予定よりもさらに良い形を目指した開発・検討が可能となる示唆を得たため、より適切なサーバの購入を検討するべく、サーバ購入を次年度へ見送った。この点については、研究課題遂行の停滞・遅延ではなく、前進であると判断している。準備段階として進めてきた高専生と同様の学習傾向特性をもつ高専教職員に対する同様の教材を使用した講義における教育効果測定の分析結果が国際会議2件に採択され、2021年度に発表予定である。
当初の予定通り、ショートシナリオコンテンツをさらに組み合わせたロングシナリオコンテンツを開発し、“没入感の深さ”の計測を実施する。開発したロングシナリオコンテンツを用いた教育効果の計測を検討するために、現時点で獲得している自己評価結果も考慮しながら、連続プレイ時間、単独セキュリティ要素のクリアの程度と必要とした時間、実行したコマンドのログなども分析し、各種効果の指標化を検討する。シナリオ内に配置する各ポイントにおける攻撃・防御スキルについても、必要な知識や基礎スキルとその習得度をスコア化し、学習者が自身の理解度・習熟度を認識できる形を目指す。自身の状態の認識は、“没入感の深さ”とそれに基づく教育効果へ影響を及ぼす重要な要因の1つであると考える。
今年度購入予定であったサイバーセキュリティ教育コンテンツ運用のためのサーバの購入を次年度に見送ったため。コンテンツの開発を進める中で、研究課題遂行により適した教材の在り方が見えてきた部分があり、そのため、今回開発する(今後開発していく)コンテンツ運用により適したサーバの購入を再検討すべきと判断した結果である。
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