ソーシャルスキル教育の課題として,効果が転移,維持しにくいことが指摘されている.教育の効果を転移,維持させるには学習者の認知過程へのアプローチが必要である.本研究はe-learning型のシミュレーション教材を開発し,教材によってメタ認知技能が活用されるか,学習効果が転移・維持するかを明らかにすることを目的とした. 2020年度は,大学生の対人問題解決スキル教育の縦糸・横糸モデルを定義したうえで,大学の講義「人間関係論」の中でモデルの内容をメタ認知知識として指導し,授業外学習の時間に2つのe-learning型シミュレーション教材(教材1,2)でメタ認知技能の活用を指導した(97名).結果より,多くの学生で教材1によってメタ認知技能の使用が促されたことが確認できた.一方で,前提となるメタ認知知識が定着していない学生も存在することが明らかとなった.2021年度の2回目の実践(124名)では,講義内容と教材1・2を修正したうえで,新たにメタ認知知識の定着を目的としたe-learning教材(復習教材)とハンドブックを追加した.また,転移効果検証のためのe-learning型のシミュレーション教材(教材3)も作成・実践した.結果から,復習教材とハンドブックを追加したことで,問題解決の手順に関する知識の定着と領域固有知識の活用に効果が見られた.一方,見方・考え方の定着は十分な効果が見られなかった.2022年度の3回目の実践(127名)では,見方・考え方について解説する時間を増やし,具体的で身近な例を用いた解説を追加した結果,見方・考え方の理解の向上を確認した.転移効果を検討するために教材3の学習履歴を分析したところ,講義で学んだメタ認知知識が定着しており,メタ認知技能が活用できている学生は,新しい場面においてもモデルに則して考えることができていることを確認した.
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