研究課題/領域番号 |
20K03131
|
研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
鈴村 美代子 成蹊大学, 経営学部, 助教 (90804493)
|
研究分担者 |
高木 俊雄 昭和女子大学, グローバルビジネス学部, 准教授 (80409482)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | PBL / 経営教育 / 学習効果 |
研究実績の概要 |
本研究プロジェクトは、PBL(Project Based Learning)を通じて学習者同士、そして学習者と教育者が連鎖し連関することで、与えられた課題が既存の枠組みを超えた新たな価値の創造へと転換していくプロセスを大学教育へ導入する有効性について検証することを目的としている。具体的には、高等教育機関、特に四年制大学の学部生を対象とした経営学教育におけるPBLの有用性について、実際の学部教育、特に初年次のキャリア教育への導入およびその検証を行ってきた。このような目的に至った理由としては、我が国の経営学教育において、教員が学生に知識を教える系統学習ではなく、知識の習得者である学生を主体とした経験型の学習アプローチが重要視されてきており、近年、PBLを主とした様々な授業形態が導入され始めており、今後もこうした傾向は継続していく可能性が高いが、効果検証については十分になされているとはいえない。また、本研究がスタートした2020年以降の世界的なコロナウイルスのパンデミックは、未だに収束していないため、コロナウイルスの予測不可能性に基づいて、制約された環境のなかでも学びを継続していくために、大学は新しい教育のあり方や方法を模索していかねばならない。そのため、本研究では、主に「PBLの設計」と「学部教育へのその導入及び効果検証」、そして「コロナ禍での実施」の観点から実施している。 2021年度は、こうしたことを踏まえたうえで、PBLの導入と非対面教育の有用性を検討するために、対面と非対面で行われたPBLを比較し、非対面PBLにおける介入の重要性とその効果について提示した。その成果の一部については、British Academy of Management年次大会に論文投稿し、発表している。また本論文は2021年度のBest Paperを受賞している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界的なコロナウイルスのパンデミックが影響し、日本の大学においても多くの授業が対面からリモート授業へと移行した。それに伴い、複数の大学ではPBLは全面中止され、一部の大学ではリモート授業として実施された。研究代表者および研究分担者が担当する2020年度のPBLは、リモート授業として実施された。この不測の事態から、リモート授業としてのPBLの導入や学習効果という新たな問いが表出された。 2021年度の本研究では、学部1年生のPBLクラスを対象とし、2019年(対面)および2020年(非対面)に実施したアンケート調査の比較、および介入研究を行った。非対面PBLでは、積極的に他のグループと意見を交換したり、インストラクター(企業協力者)、コーディネーター(教員)、メンター(TA)へ質問などをする機会が相対的に少なくなる。実際、非対面PBLでは企業協力者と学生の密なコミュニケーションが困難であったがゆえに、途中経過では企業協力者が望んでいた帰結と学生の成果物との間に不一致が生じていた。アンケート調査の結果、とりわけメンターによる積極的な介入が学生同士のコミュニケーションや企業への接近を促進させ、コミュニティの応答性を高めていたことが明らかになった。非対面PBLを導入する場合、コーディネーターやメンターは重要な役割を果たす。非対面PBLを対象としたアンケートの平均スコアはわずかな低下を示したものの、変化がない項目に関しては介入によって影響を受けていると捉えた。このことから、非対面PBLを実施する際は、TA、教員、企業協力者の介入により、学生の主体的な学習への参加と、企業ニーズからの逸脱を軽減させることが可能であるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、学部教育への導入及び効果検証を実施する予定である。経営学教育に関する効果検証としては、①ルーブリック評価、②学習効果評価の2点から実施していく。ルーブリックは、旧来の知識伝達型教育ではなく、PBLのような能動的に学ぶ場合に適している学習者自身が自己を評価する方式であり(Stevens, D. & Levi, Antonia J.,2013)、近年の我が国の大学教育においても利用されるようになっている。このルーブリックについては、研究分担者が所属する大学でも、研究分担者が中心となりこの評価方法に関する開発を行っているため、本研究プロジェクトにおいてもこの知見を利用し、効果検証を行っていく。また、この評価に加えて杉山・辻(2014)で示されているような主観的指標に加えて客観的な指標も含めた学習効果評価を加えて実施することにより、PBLプログラムの効果検証を行っていく。 また、研究成果発表も継続的に行っていく。具体的には、PBLの経営学教育への導入及び効果検証の結果を、国内外の学会(Learning and Education, Academy of Management、European Group of Organization Studies、日本教育工学会、組織学会、日本マネジメント学会等)で発表する。また併せて教育工学及び経営学等のジャーナルへの投稿も行うことで、幅広く研究成果を発表していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に引き続き、2021年度においてもコロナウイルス禍の影響により、申請時に予定していた国際学会および国内学会への参加を見送ることになったこと、ないし、リモート開催となり、旅費の支出が発生しなかったことから、次年度使用額が発生することとなった。 2022年度は、PBLを経験した学生への聞き取り調査等における謝金、国際ジャーナルないし国際学会における論文・プロシーディングス投稿における英文校正費、国内学会への参加費、書籍購入費を主とした使用を計画している。
|