本研究は、PBLを通じて学習者同士、そして学習者と教育者が連鎖し連関することで、与えられた課題が既存の枠組みを超えた新たな価値の創造へと転換していくプロセスを大学教育へ導入する有効性について検討することを目的としている。 2020年~2022年までの本研究では、大学生(学習者)間および大学生と教育者(PBLへの協力企業または教員)間の連関を主な対象とし、大学におけるPBLについて考察した。本研究がスタートした2020年および2021年は、コロナウイルスの流行が大学における授業形態に多大なる影響を与えた。とりわけ、従来のPBLは対面による実施を基本としていたため、非対面PBLの実現可能性について検討する機会を得て、非対面PBLでは、TA、教員、企業協力者の介入により、学生の主体的な学習への参加と、企業ニーズからの逸脱を軽減させることが可能であることを提示した。また、PBLは系統学習とは異なる、脱学校化された学びとも捉えられる。こうした側面を踏まえたうえで、地理的離間が存在する状況において、都市部の大学(生)と地方の中学高校(生)という地理的離間を活用した有効なPBLについて検討し、その設計段階における調整コストと環境整備を課題として提示した。 本研究は、知識は社会的な相互作用によって構築され、実践的コミュニティに依拠していると捉える社会構成主義的学習観に基づいている。最終年度では、知識が内化される様態を学習とする従来の組織学習観とは異なり、組織における社会的相互作用のなかで新たな価値が創造される学習の拡張性を射程とすることの重要性について、大学生を含めた様々な組織に属するアクター(行為者)達の多声的(ポリフォニック)な学びの場に注目した、今後の研究展開に向けての予備的研究を実施した。
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