本研究は、アートマネジメント人材に求められる能力の養成と学習支援方策という観点から、公演批評を通したディスカッション能力の養成のあり方を考察するものである。初年度(2020年度)より世界的なコロナ禍により公演中止が相次ぎ、現地調査も困難となったことから、調査対象や計画を大幅に見直して調査研究を進めた。2020年度-2022年度は主に、コロナ禍における芸術の語られ方(2020年、2022年)、コロナ禍で生じた芸術支援に関する議論(2021年、2022年)、オンラインで実施された芸術活動に関する分析(2021年)、伝統芸能の発信に関するフォーラム(2022年)、芸術作品や活動に関するディスカッション(2020年)など、コロナ禍で生じた論点やテーマを取り上げ、オンラインで遂行可能な調査を中心とした。 2023年度は、2つの調査を行った。まず、①コロナ禍におけるアーティストの状況に焦点をあて、3年間の調査データ(2020-22年度、大阪アーツカウンシル)を用いて当事者の経済的状況を明らかにした。その上で、コロナ禍での悩みとして「活動機会の喪失」、「メンタル不調」や「疎外感」が顕著にみられたことに着目し、「不要不急論」に見られる日本社会における芸術の扱われ方やピアコミュニティの衰退の影響を指摘した。次に、②ディスカッションにおいて多様なメンバーを媒介する核を「ミッション」と想定し、芸術分野におけるミッション・ステートメントの実態を日米の地域アーツカウンシルを対象に比較し、我が国の不十分な状況を明らかにした。ミッションは関係者とのコミュニケーションツールとしても機能しており、ミッションとともにステークホルダーを具体化し、自らの言葉で編み出すことの重要性を導き出した。 今後、本課題を通じて得られた事例や成果を整理し、学生が実践可能なディスカッションの指針としてまとめる予定である。
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