「トランスグレード実習講座」は、中高生から社会人・高齢者まで異年齢の人々が同じ実験課題に取り組み、共に学び合う、学年や世代の壁を越えた(トランスグレードな)協働教育の試みである。2015年度から開発・実践を始めた2種の実習の高評価を踏まえて、本研究ではこの教育手法をさらに展開し、その効果を解析することを目的とした。 初年度からCOVID-19のパンデミックに直面し、学外者を大学に受け入れて実習を開催できる状況ではなかったため、比較的早く対面授業や課外活動を再開した高校・中学校を会場とすることに変更し、宮城県内3校合同の転写・翻訳実習講座や、遠隔地の学校にも機材を送付した蛍光・偏光顕微鏡組立オンライン実習講座を中高生+教員を対象に実施した。学内では、文系も含む部局横断の大学院生を対象にPCRなどを体験する遺伝子多型解析実習講座を開講した。2022年度から徐々に対面実習の対象を拡大し、最終年度(2023年度)は学内外の受講者を広く募り、3つの実習講座を実施できた。別課題で構築した医用イメージング実習を元に小動物を用いた画像診断実習を12月に2回、1日半の蛍光・偏光顕微鏡組立実習を2月に、ウズラ胚を観察する発生生物学実習を3月に2回、全て対面で開催し、のべ94名が受講し、TA 10名・講師2名が指導に当たった。4年間の研究期間を通じたトランスグレード実習講座の受講者数は340名にのぼる。 コロナ禍で当初の計画から一部変更を余儀なくされたが、制約の多い状況下でも実習講座の構築と実践を進め、受講者からフィードバックを得ることができた。開催方法変更の影響で受講者に占める中高生の比率が想定よりも遙かに高くなり、若者の科学リテラシー向上と次世代人材育成に資するものとなった反面、社会人が教員に偏り、高齢者の参加は得られなかったため、教養教育・生涯教育の視点からの検証は今後の課題である。
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