研究課題/領域番号 |
20K03200
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
中野 良樹 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (50310991)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 協働性 / 洞察 / 問題解決 / 小学校生活科 |
研究実績の概要 |
本計画は、協働的で創造的な問題解決が生起する過程を認知実験と教育実践の両面から明らかにし、その過程を促進する手立てを考案することを目的としている。 認知実験に関しては、タングラムを用いた協働的問題解決の実験において、予備的な検討を行った。20名の実験協力者に対して協働しながらタングラムのDuck課題を解決する実験を行った。Duck課題の分析方法に関して、問題解決者のほとんどが右から左方向にパズルを完成させていたことを見出した。この性質に着目し、問題解決にたどり着くまでを1ステップごとに定量化する分析方法を考案した。現在、解決までの「近さ」の変化と、2名の問題解決者間の会話や視線方向との関連について分析を行っている。 教育実践現場における問題解決場面の検討については、小学校生活科の授業実践を2020年10月20日~27日の期間に、1年生生活科授業「秋でたのしもう」の参与観察を実施した。この授業では、枯葉や松ぼっくりなど秋を象徴する自然の物で子どもたちが思い思いに「秋を楽しむためのおもちゃ」を創作する様子を観察した。この実践では、完成したおもちゃを画像データとして保存した。 小学校生活科における実践研究では、最終的にはおもちゃ創作における協働性と問題解決学習について、授業づくりの基盤となるプラットフォームの提案をめざす。その作業には質的分析ソフトMaxQDAを活用する予定である。分析手法に習熟するために2021年3月23日、24日にオンライン上で開催された国際セミナー“MAXQDA virtual conference on March 23 & 24 2021”に参加し、特にグラフィック表現の技術について学んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画初年度はコロナ禍による感染拡大防止のため、実験実施等がかなり制限される環境にあった。そうした状況下においても感染防止対策に努め、協働的問題解決に関する実験室実験と、小学校生活科における授業実践において、子どもたちがおもちゃを創作する過程で直面する問題解決過程を観察し、実際に創作したおもちゃについて画像データを収集できた。 また実験設備面においても、本研究費を活用して、眼球運動の測定装置を片側瞳孔検出から両側検出にバージョンアップすることによって、視線方向の解析をより精度の高いものに更新した。また、分析ソフトに関しても、MaxQDAを最新ヴァージョンのものに更新し、グラフィックによるデータの構造化機能をより強化した。コロナ対応で実験や観察が思うように進まないなか、着実に設備の更新と強化を進めることができた。 さらに、本研究助成金を活用して、国際誌に投稿するための英語論文を準備中である。昨年度中に過去のデータを加えて、複数の実験を十分なサンプル数で行った研究として成立させ、先述したDuck課題の新しい分析方法を追加して、原著論文としてほぼ完成している。現在は、助成金を活用してネイティブ・チェックを受けるべく準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
認知実験に関しては、タングラムを使用した協働的問題解決の実験を継続する。特に、協働作業下において、洞察に至るまでの過程が発想の共有や熟議によってどのように促進されるのかについて検討する。また、洞察問題でありながら多数の課題を有するタングラムの特長を生かして、課題解決のくり返しに伴って学び合いによる「洞察の熟達化」がありえるのかについても検討する。上記の実験実施にあたっては、2名の実験協力者の作業を撮影した画像を同時並行して統合的に分析する必要がある。この目的のために、本研究費を活用して行動分析ソフトのバージョンアップを行う。 また、これまでの研究成果をまとめ、定評のある国際学会誌に論文を投稿する。現在、Journal of Experimental Psychologyなどの雑誌を候補に挙げて、投稿準備中である。 小学校生活科の実践研究に関しては、おもちゃを創作する授業とそれ以外の生活科単元で、児童の協働的問題解決の場面を比較し、特におもちゃ創作に特有の創造的問題解決の特徴を記述する。比較対象の授業として、アサガオや野菜を育てる栽培単元を予定する。この栽培の授業で児童たちは、育てている植物が枯れたり、虫に食われたりなどの問題解決場面に直面する。こうした問題を児童一人の力で乗り越えることは難しい、周囲の友だちと情報交換をしたり、みんなでより良い育て方を模索したりなど協働性が欠かせない。こうした協働的問題解決での学び合いについて、栽培単元とおもちゃの創作での相違点を比較することから、おもちゃ創作における創造的で協働的な問題解決の過程を明確にする。
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