本研究の目的は、子どもが科学的な根拠に基づいて生物多様性の保全について意思決定を行うための学習教材を開発することである。そのため、日本全国で絶滅が危惧され保全活動が行われているとともに、様々な生物学的基礎研究がなされているメダカを題材とした学習プログラムの開発を行ってきた。 これまでの研究から、この10~15年間でメダカの生息地は減少していること、また、現在メダカが生息している場所でも個体の遺伝子を解析すると、集団には在来のタイプだけでなく、市販のタイプの遺伝子を持つ個体が混じっていることを明らかにした。 最終年度においては、それらの事実を用いて中学校3年生が「自然と人間」の単元で国内外来種問題について探究的に学ぶための学習教材を作成し、授業実践を行った。学習プログラムの構成は、学習の課題を「野生のミナミメダカがいなくなりそうな池に市販の黒いミナミメダカを放流することはミナミメダカを絶滅から守る行動といえるだろうか?」とし、野生メダカの飼育集団に市販のクロメダカを導入したときに、数世代で生じる体色構成の変化から、生徒は遺伝子汚染に気づき、遺伝の単元で学習した内容を根拠として課題に対する結論を導くというものである。 授業実践の結果、開発した学習プログラムを用いて授業を行うことで、生徒は市販の生物の放流により、集団の遺伝子構成に影響がでることを理解できた一方で、遺伝子構成が変化することの問題点については理解できない、ということが明らかとなった。この授業実践を通じて挙がった問題を改善することで、当初の目的に沿った学習プログラムを提供できると考えている。
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