研究課題/領域番号 |
20K03223
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
平井 英明 宇都宮大学, 農学部, 教授 (20208804)
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研究分担者 |
白石 智子 宇都宮大学, 地域デザイン科学部, 准教授 (00453994)
出口 明子 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (70515981)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 土壌教育 / 泥団子 / 家庭内での土体験 / 疑似的土壌教育教材 / Pre-post心理アンケート / ポジティヴな感情・認知 / ネガティヴな感情・認知 / 落ち着く |
研究実績の概要 |
「研究目的」野外フィールドにおいて身体で土壌を感じる体験型土壌教育パッケージを開発することが本研究の主たる目的であった。加えて、この教育パッケージの前後で人々の心理的変化を検証することで、その有効性を検証することも目的の一つであった。しかしながら,新型コロナウイルス肺炎の蔓延が2020年の3月ごろより顕在化したため、外出制限や大学農学部の附属施設への外部者の入構禁止により、本プロジェクトの内容を,家庭内で実践可能な体験型教育パッケージの開発に変更した。「研究実施計画」家庭内で土に触れて体感できるようなプログラムを考案した。それは、市販の泥団子キットを希望者に配布して,泥団子を家庭内で製作し,投稿するというものであった。コロナ禍の中でも,人と接触をしない室内で,疑似的に土を体感できるプログラム開発である。泥団子キットの材料は,厳密には生物の影響下で生成した表土ではなく、生物の働きのない土の材料であったが室内での土体験には有効であると判断した。[研究結果]大学生14名に泥団子キットを送付しその製作する前後の心理状態を調査した。アンケート結果の入力は、グーグルフォームによった。その結果,泥団子を作成した後に,「たのしい」,「安心する」,「ワクワクする」からなる「ポジティヴな感情・認知」については,その値が高くなり,「触りたくない」、「心配だ」、「イライラする」からなる「ネガティヴな感情・認知」については,その値が低くなった。また,「落ち着く」については,作成後にその値が高くなる傾向を示した。以上のように,疑似的な土の材料を活用した家庭内での泥団子制作は,ポジティヴな感情を増加させ,ネガティヴな感情を減少させ,落ち着きを増大させる効果を示した点を考慮すると,土の材料を含む泥団子キットによる泥団子づくりは,体験型土壌教育プログラム導入用の教材として,活用可能であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[もともとの研究計画]研究期間の1年目には,次の内容を宇都宮大学農学部附属農場において,栃木県立博物館との共同事業として実践する予定であった。「森林下の土壌への触れ合いに適する土壌の選定と「表土の団粒構造」と「下層土の塊状構造」を無理なく素手で触れることのできるような野外フィールドにおける土壌の観察会を企画する。」 しかしながら、新型コロナウイルス感染症の蔓延により,大学への外部者の入構が不可能となったため,栃木県立博物館の共同事業自体を中止せざるを得なくなった。 [コロナ下において修正した研究計画]このため,外出制限においても実践可能であるような室内における体験型土壌教育プログラムパッケージの開発へとその研究の方向性をシフトすることとなった。具体的には、疑似的な土である泥団子キットを家庭内で学生が製作ることにで、疑似的な土体験を行うというものであった。これが、当初予定していた,『土壌の「形態」と「機能」に関わる教育パッケージの予備的な開発を行う。』という目標をある程度達成することとなった。 [修正した研究計画とその評価方法]その疑似的な土体験の過程において,『土に触れる前後でどのような心理的な変化が生じるのかに関する予備的検証も行う。』という課題については,対面型のアンケート方式からWEB上でのデジタル型のアンケート調査・集計方法の開発へと進化することとなった。これは,当初予定していた、体験型土壌教育プログラムパッケージの評価の側面において,紙媒体による評価よりも進化したデジタル型の評価法を実現することができた点において、当初予定した計画よりも上回る進捗を示した。以上のことから,SDGs時代に求められる土壌の機能やそれを実感する教育教材の指針をある程度定めることができたと評価できたので、「おおむね順調に推移している」との評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
森林表土、市販の砂、およびシュレッダーにかけた紙という3種類を準備して、ビニール袋に詰めて、それぞれに一定時間触れる実験計画を立案し、それを高校生を対象に実践した。この目的は、土に触れる前後の心理評価を行うことであるが、対照群として、砂と裁断した紙を選択し、心理学的観点から、コロナ禍の中にあっても室内で体験的に土に触れる意義を検証する予定である。現在、その調査が終了し、結果の取りまとめを実施している。さらに、野外フィールドにおける体験型土壌教育プログラムパッケージの開発を目指して、栃木県真岡市自然観察センターの職員とコンタクトを取り、予備調査を実施した。2021年度は、その調査を継続し、自然観察センターにおける多様な自然を観察する取り組みを行い、それに引き続いてその自然を支える土壌を、落葉をめくる作業、その下にある表土を掘り進めるための細根をかき分ける作業、そして、表土を掘り進め、下層土にまで到達するという土壌の横顔を観察するための一連の調査法を実施する。その後、落葉の層、表層の土、下層の土を採取して、簡易的な観察実験を実施する。これらに加えて、人工的に作られた泥団子キットにある疑似的な土により泥団子を作成することで、自然の土と人工の土の差異を学ぶ教育プログラムパッケージとする。これら一連の教育プログラムの前後には、1年目に開発した心理尺度に関するアンケート調査を実施し、これらのプログラムの人の心理への影響を考察することで、体験型プログラムパッケージの評価とする。コロナ下において海外で開催予定の国際会議において成果を報告することが叶わない状況にある。そこで、野外フィールドの体験型土壌教育プログラムパッケージを開発実践している様子を撮影し、そのデジタル映像をホームページにアップロードすることで、土体験型土壌教育プログラムパッケージを国内外に発信することを企画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,新型コロナウイルス感染症の日本及び世界的な蔓延により,所属している大学の基準に則り,国内の出張および国外の出張を自粛したため,旅費を使用することがなかったことにその主な原因がある。新型コロナウイルス感染症については.現在,再び,大阪や東京などで感染者数が増大しているとともに,マレーシアで開催される予定の国際会議が延期になったことを受けて,旅費の使用額が制限される可能性が強くなってきた。このため,今年度は,栃木県内で実施可能な体験型土壌教育プログラムパッケージの開発と評価に力点を移して,土壌教育プログラムの開発を推進するために,表土生成に不可欠な落葉が腐熟する過程をモニターする実験を推進する。この実験の遂行には、補助者が不可欠であるので雇用する予定である。宇都宮大学農学部附属農場における雑木林の下には、団粒構造の発達した表土が生成している。この表土は有機育苗に用いられているが、その表土の空気の含量や透水性の測定は、土壌教育プログラムにとっては不可欠な教育すべき項目である。このため、野外および室内で共用できるような、かつ、学校教育現場でデモンストレーションして教育効果の高まるような実験器具を選定して購入するとともに、その教育教材を作成する。この教材作成には、土壌や有機育苗に関する研究を実施した経験を有する補助者が必要不可欠であるので、雇用する予定である。
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