研究課題/領域番号 |
20K03223
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
平井 英明 宇都宮大学, 農学部, 教授 (20208804)
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研究分担者 |
白石 智子 宇都宮大学, 地域デザイン科学部, 准教授 (00453994)
出口 明子 宇都宮大学, 共同教育学部, 准教授 (70515981)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 土壌教育の国際ガイドライン / 自分事として土をとらえる感性 / カレー1杯の白米を生み出す土壌の質量 / 体験型土壌教育プログラム / 森・土・水・田・イネ・コメの一連の繋がり / 社会や生命の基盤(プラットフォーム) |
研究実績の概要 |
SDGs時代の社会形成基盤としての「土壌」の多様な形態と機能について、広く子どもたちや市民が理解する態度を形成できるような野外フィールドにおける土壌教育パッケージを開発・評価することを目的として研究を実施している。 令和5年度は、栃木県立博物館において毎年実施している「たんぼ物語~土ってすごイネ~」の内容を博物館の学芸員が実施するにあたり、学術面からのアドバイスを行った。そのアドバイスは、土壌教育の国際ガイドライン(平井ら、2022:https://doi.org/10.20710/dojo.93.5_321)や自分事として土をとらえる感性を育むために~「土壌教育はなぜ必要なのか」を考える内容(浅野ら、2023:https://doi.org/10.20710/dojo.94.5_419)に則って行っている。具体的には、宇都宮大学農学部附属農場で開発・育成された「ゆうだい21」が異なる施肥方法(堆肥連用、化学肥料連用、無肥料)で栽培された試験田を活用し、それぞれの試験田で栽培されたイネ1株とその下の表土を素手で掘り取る取り組みの提案を行った。さらに、自分事として土をとらえる感性を育むために、カレーライス1杯分を生産するためには、「ゆうだい21」は何株必要で、何グラムの土壌が必要であるのかを、「収量・収量構成要素とそのイネ1株を支えている土壌の分析から定量的にカレーライス1杯を食べるために必要な土壌の質量を計算する方法」を学術論文として公表した(平井ら、2023:https://doi.org/10.20710/dojo.95.1_1)。そのタイトルは、カレーライス1杯分のコメを生産するために必要な土の面積と質量に関する作物・土壌学的調査-森・土・水・田・イネ・コメの一連のつながりを可視化するフィールド型土壌教育プログラムへの貢献-であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナウイルス感染症の蔓延下では、体験型土壌教育プログラムの野外での実践が困難であった。このため、土の親しみの尺度を予備的尺度として開発し、体験型土壌教育プログラムを野外フィールドで実践することができない社会環境の中における、土を疑似体験するプログラムを、市販の泥団子キットを用いて開発した。 コロナウイルス感染症の中にあっても、これらの工夫をしながら研究計画の目的の達成に向けて取り組んできた。加えて「泥団子キットを用いた疑似的土体験の心理的効果-体験型土壌教育プログラムへの導入教材として-」、「カレーライス 1 杯に必要なコメを生産する土の面積と質量の作物・土壌学的調査」という2つの論文を公表することで、土の親しみの尺度の有用性や自分自身の命を支えている土壌を,実感を伴いながら定量的に理解する方法を示すことができた。 加えて、令和5年度は、これまで実施してきた内容を、農学部附属農場において4日間にわたって複数の体験的土壌教育プログラムパッケージを開発し、高校生に対して実践するとともに、その実践したプログラムを評価した上で、令和5年度には、共同教育学部、地域デザイン科学部、農学部の学部生を対象として、附属農場における複数の体験型土壌教育プログラムパッケージをPre-Postの心理学的な分析や理科教育学的側面からの実践法を盛り込みながら実施することができた。 以上の取り組みから、体験的土壌教育プログラムの開発・実践・評価の観点、そして、本プログラムを受講した児童生徒・一般成人の土への親しみがどの程度であるかを心理尺度を用いて定量的に解析するためのデータが得られた点を考慮すると、研究がおおむね順調に進んでいると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度に宇都宮大学農学部附属農場における体験型土壌教育プログラムパッケージを開発し実践した。その実践は、4回実施されており、それぞれ、一般心理尺度、土の親しみの尺度を用いて、体験型土壌教育プログラムを受講した前後での心理変化のデータを取得するとともに、前後のコンセプトマップやリフレクションシートのデータを取得した。加えて、TAとして参画した大学生や研究支援員が、受講した高校生を観察した結果を取りまとめ、各回に設定された体験型土壌教育プログラムの目標に関する達成度を評価してもらった。このデータの取りまとめを、理科教育および心理学の専門家による評価を受けた。この評価に基づいて、令和5年度に地域デザイン科学部、共同教育学部、農学部の学部生に対して、共同研究者と議論を重ねて改善を施した複数の土壌教育プログラムからなる土壌教育プログラムパッケージを農学部附属農場で実施した。 加えて、一般心理尺度、土の親しみの尺度によるPre-Post分析を実施するとともに、理科教育学的側面から、土壌に水を加えた際に起こる現象を予測させることで、土壌の機能に関して深く理解できるような観察実験をフィールドで実施した。さらに、森と水田の標高差に関して俯瞰できる場所に学生を、プログラムを始める前後に誘って、土壌が森から水田に至る生態環境を支える基盤(プラットフォーム)である事実を体験的に感受できるように工夫した。 これらのフィールド体験型の土壌教育プログラムパッケージの実践による土への親しみや一般的な心理に及ぼす影響を統計解析を駆使しつつ評価する。この評価結果に基づいて、SDGs時代の社会形成基盤としての土壌の多様な形態と機能について、広く子どもたちや市民が理解する態度を醸成できるような野外フィールドにおける土壌教育パッケージを提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度の研究費の支出に関しては、附属農場におけるカレーライス一杯のお米を栽培するために必要な水稲や土地の面積や土壌の質量に関する論文を作成し投稿し受理され公表された。この際の投稿費用や日本語校閲の費用として支出した。さらに、表土の微生物の遺伝子解析のための試薬を購入した。 計画的に執行を行ったが、経費を抑えられたため残金が生じた。残額については、次年度追加の調査をするために必要となる技術補佐員の謝金や学会発表や論文を投稿する費用に活用する予定である。
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