研究課題/領域番号 |
20K03236
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大木 聖子 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40443337)
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研究分担者 |
宮前 良平 福山市立大学, 都市経営学部, 講師 (20849830)
大門 大朗 京都大学, 防災研究所, 特別研究員(CPD) (20852164)
岩堀 卓弥 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 特別研究員(PD) (50835999) [辞退]
中野 元太 京都大学, 防災研究所, 助教 (90849192)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自然災害 / 社会構成主義 / 不確実性 / コミュニケーション / 防災行動 |
研究実績の概要 |
「防災小説」に関する研究から想起された以下の仮説:「専門家コミュニティで共有されている知見を伝えるよりも,自分にとってそれは何なのかを日常の文脈として考えられる方が,来たるべ き地震災害への対処行動につながるのではないか」を更に検証するため,新たな試みとなる「防災実動訓練」を開発し,実施した. 実動訓練とは,特定の発災日時を具体的に想定して,実際の資源(建物等)を使って発災時の状況を再現し,実際の人がその対処行動を取るものである.本研究では,被災者を演じる者として防災研究に携わる大学生を,対処者として安全管理を行う立場にある学校教員や空港職員をそれぞれ配置し,学校や空港などの施設を使用して実施した.発災時のシナリオとして,過去に起きた地震災害において実際に起きたこととした.例えば,余震で悲鳴をあげる,階段で転落する,過呼吸が伝搬する,等である. 訓練はたくさんのカメラを随所に設置して撮影し,参加者の音声もICレコーダーで録音した.これらの膨大なデータをつぶさに分析した結果,以下のことが分かった.これまでの訓練では傷病者や施設の停電などの管理者にとって都合の悪いことは起きない設定になっていたこと,単なる前年度の踏襲のために過去に一例もない学校倒壊をあえて設定して校庭に避難していたこと,総じて現実に起こりうることを少しも考えずに,したがって訓練中に「自分は今何をすべきか」も考えずに,ただ漫然と決まった行動を取っていただけだった,等である.「防災実動訓練」を経て,学校や空港で行う訓練は,訓練参加者が主導して「全員が今何をすべきかを考え続ける」訓練へと変化していった.このことは,「あるコト・モノの意味はその人をとりまく関係性の中で構築されていく」という社会構成主義的な認知が,実動訓練によって想起され,参加者に行動変容をもたらしたことを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の蔓延によって当初計画していたワークショップが実施できなかったことが尾を引いているものの,その間にオンラインで実施できるように開発した取り組みが,対面でできるようになったことから,あらたな防災コンテンツである「防災実動訓練」が誕生した. このコンテンツが,「自分にとって災害は何か」という構成主義的な理解を促しているかどうかを調査するまでが本研究の範疇と考え,1年度の延長を決意した次第である.
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今後の研究の推進方策 |
延長年度に複数回の「防災実動訓練」を実施することが既に決まっている.そこで,事前と事後にアンケートおよびヒアリング調査を行い,特に「未来の不確実事象である災害をイメージしたとき,そこに自分自身を配置しているか,自分にとっての発災の意味を含む表現が出現するか」に着目して分析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
延長年度に複数回の「防災実動訓練」を実施することが既に決まっており,本研究テーマである構成主義的な災害イメージの確立を各人がどのように行うかを調査分析する.そのための旅費および調査費として次年度使用額が生じた.
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