研究課題/領域番号 |
20K03239
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研究機関 | 人間環境大学 |
研究代表者 |
吉武 久美 人間環境大学, 心理学部, 教授 (90706665)
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研究分担者 |
光井 能麻 名古屋大学, 減災連携研究センター, 博士研究員 (20435837)
中川 和之 静岡大学, 防災総合センター, 客員教授 (10836521)
坪井 裕子 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (40421268)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 熊本地震 / 地学教育 / 心の減災 |
研究実績の概要 |
本研究は、地震学の社会的普及を目指し、被災生活と地震学の関係を理解するために、地震学を含む事前の地学教育から被災時のストレス軽減に至る過程を想定し、事前の地学教育と被災時の心理状態との関係を明らかにすることを目的としている。そこで本研究では、熊本地震被災者へのインタビュー調査、その会話内容の分析により心理的プロセスの仮説を生成する。さらに、その仮説をアンケート調査によって検証し、事前の地学教育と被災時の心理状態との関係を明らかにする。今年度は、昨年度3月末に実施したインタビュー調査の会話データの分析を行い、さらにインタビュー調査の実施状況を学会で報告した。 熊本地震被災者の半構造化面接によるインタビュー調査では、小学生のころの理科教育の内容、前震・本震の被災状況、避難時の様子や避難先での状況を聴き取ることができ、学会発表ではつぎのようなことが示された。インタビュー参加者の共通した報告内容として、(1)小学生時代の理科の授業:座学以外の授業(理科室での実験、農園での野菜作り、野外学習など)が多く面白かった、夏休みの自由研究に力を入れていた、(2)当時の教諭の印象:親しみやすい、面白い、「集中」が口癖であったなどがあがった。また、理科の授業で学んだ断層の授業内容を被災後に思い出したのは16名中7名であった。授業内容を思い出したインタビュー参加者からは、授業内容を思い出したことが被災状況の理解を促すように働いたと考えられるような発言が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では研究期間中に面接調査とアンケート調査をそれぞれ1回実施することで、当初計画した次の2点について検討する考えである。1.本事例の対象者への面接を実施し、会話内容の分析を通じて、事前の地学教育から被災時のストレス軽減に至る心理的プロセスの仮説を生成する。2.対象者と同年代の被災者へのアンケート調査を実施し、仮説を検証する。 現在、1.心理的プロセスの仮説生成を行っている。新型コロナウィルス感染症のために当初計画を修正し、1年半遅く2022年3月末に面接調査を実施した。面接調査では計画よりも多い、18名の参加者のインタビューを実施することができた。会話データは983.57時間にもおよび、これら得られた会話データは逐語録によるテキストデータとした。面接調査の実施状況と簡単な分析結果を2022年10月に学会発表した。今後、心理的プロセスを明らかとし、その成果を論文化する予定である。 また、2.のアンケート調査を実施するため、2023年1月には益城町教育委員会等と協議する機会を得た。具体的な調査実施の場所・日程については決まっていないものの、継続して協議する考えである。アンケート調査の質問内容については検討を始めており、今後、明らかにした心理的プロセスを踏まえ修正し、確定する。
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今後の研究の推進方策 |
面接調査で得られた会話データをもとにした、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いた会話内容の分析を継続して行う。ここで得られた成果を今秋には学会発表することを計画している。また、これらの成果を論文化していく予定である。 さらに、事前の地学教育から被災時のストレス軽減に至る過程を明らかとするため、会話内容の分析で得られた心理的プロセスを仮説検証するアンケート調査を実施する。すでに、アンケート調査の質問内容は検討し始めており、今後、会話内容の分析結果をもとに加筆修正し、確定する予定である。なお、アンケート調査の実施場所・時期については具体的に決定しておらず、益城町教育委員会等も継続して協議を行い、確保する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画では、2020年度後半には熊本県益城町において面接調査を実施し、前半にはその準備を予定していた。しかし、新型コロナウィルス感染症の問題が発生したことにより、熊本地震の被災者を参加者とする面接調査を実施することは困難となった。また、十分な準備ができなかったこと、県をまたいでの移動の自粛が求められていること、面接では被災経験も聴くことから参加者への十分な倫理的配慮が必要とされていることなどから、面接調査を実施することは適切ではないと判断した。そのため、研究計画におおよそ1年半の遅れが生じていることから、次年度使用額が生じることとなった。本年度は修正した研究計画通りに、面接調査で得られた会話内容をテキストデータ化し、その分析に取り組むことができた。次年度は、質問紙調査を実施するための準備を行い、データ収集とその分析を実施する予定である。
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