天体の客観的な物理情報は分光観測によるスペクトルの解析から得られることが一般的である。分光観測は天体物理学を理解し実践するうえでの重要な基礎となっている。初学者にとってその理解は必ずしも容易ではないところが難点であるが、天体のスペクトルやその色は視覚的に印象的であるため、これらを自らの視覚で体験することができれば、天体物理学における分光学的研究が持つ本質的な意味をより直観的に理解することできる。そのような背景から、眼視での観望可能な望遠鏡に独自に開発した接眼分光器を設置することで天体の色と天体の分光スペクトルを同時に観察することを可能とした。しかし、人間の眼は暗い対象に対して色を検知する能力が著しく低下することから天体スペクトルの観察には大口径の望遠鏡での設置が優位となる。特に、暗い天体の分光スペクトルの観察には大型望遠鏡の集光力が必要不可欠である。そのことから、ぐんま天文台150cm望遠鏡を活用することで、天体の色のみならず、天体の分光スペクトルのかなり詳細な特性までを視覚的に検知することが可能となった。本研究では、天体の分光観測にもとづく天体物理学の基礎を、視覚を通じて直観的に学べる効果的な教育手段となった。公共天文台であるぐんま天文台では夜間の観望会を中心に多くの来館者がある。そこでは、多くの人に天体のスペクトルを観察することで天文学の観測手法の一旦を垣間見ることが可能である。また、スペクトルの観察には資料や教材の活用が有効であることから、それらで得られたデータを基とした教材の作成を行った。予め取得した人間の視覚に近いリアルな天体スペクトル画像をタブレット端末や印刷物、計算機のモニタなどで表示することでスペクトル観察の一助とした。接眼分光器での観察やスペクトル画像は教育普及事業の中で活用され好評を得ている。
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