研究課題/領域番号 |
20K03254
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
細谷 忠嗣 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 特任准教授 (90467944)
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研究分担者 |
御田 成顕 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (70800655)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 環境教育 / 環境エンリッチメント / 獣害問題 / 動物園 / 教育イベント / 動物福祉 / 屠体給餌 / 有害駆除 |
研究実績の概要 |
本研究は動物園における駆除個体の肉食動物への屠体給餌を来園者が動物福祉の課題や地域の獣害問題について考える環境教育イベントとして確立することが目的である。令和2年度は新型コロナウイルスの影響により、動物園におけるイベント開催の自粛や出張調査の制限があり、動物園における実地調査が制限された状態ではあったが以下の研究を実施した。 まず、環境エンリッチメントの効果の検証として、東海大学の伊藤秀一教授ほかとの共同研究として、熊本市動植物園のユキヒョウ、大牟田市動物園のトラとアムールヒョウに対する屠体給餌の行動観察をビデオ撮影と直接観察によって実施し、通常給餌時と屠体給餌時における行動の比較分析として行動時間の配分の変化や行動パターン変化などを定量的に評価することを現在進めている。また、動物園で駆除個体の肉食動物への屠体給餌を実際に実施し、環境教育イベントとして活用する際の一連の流れについて整理を行った。屠体給餌実施の段階を3つに整理し、(1)事前準備にあたる屠体の処理の方法(特に衛生的な処理方法)について、(2)環境エンリッチメントとして屠体給餌を実施する方法とその効果の測定方法について、そして、(3)環境教育イベントとして来園者に見せて実施する際の説明等の手順や注意点などについて、共同研究者や研究協力者、および動物園関係者とともに検討を重ね、実施マニュアルを作成した。 来園者の動物園に対する印象について、来園機会が少ない世代に含まれる専門学校生を対象としたアンケート調査の結果から、来園者を楽しませつつ動物に対する関心を喚起させることが動物園の環境教育機能を高める可能性があることを明らかにし、投稿論文が受理された。そして、全国の動物園を対象にアンケート調査を行い、動物園が屠体給餌実施の意思決定を行う際に求められる条件と課題を整理し、論文を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、様々な活動の制限やイベント等の自粛が生じた。そのため、動物園において駆除個体を肉食動物に屠体給餌し、それを来園者に環境教育として公開するイベントの開催の中止や、開催できた場合も来園者へのアプローチに制限がかかる状態となった。また、研究代表者の所属先が所在する福岡県は早い段階から緊急事態宣言が発出されるなど、所属機関からの出張制限や、受け入れ先の動物園等からの受け入れや活動の制限も生じた。このような状況から、研究活動に大きな支障が生じ、特に動物園における検証事項、屠体給餌に関する肉食動物に対する効果検証や、イベント参加者に対する環境教育イベントとしての効果検証などを十分に実施することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、実際に駆除個体の肉食動物に対する屠体給餌を各地の動物園において各種の肉食動物に対して実施し、来園者に対する教育効果の検証と、肉食動物に対する環境エンリッチメント効果の検証を進めていく。 来園者に対する環境教育としてのイベントの効果の検証としては、令和2年度に作成したマニュアルにそって屠体給餌イベントを実施し、その際の見学者が感じた点などについてアンケート調査を中心に調査していく。また、動物園における実地での屠体給餌イベントの開催がコロナウイルスの感染拡大などの影響で制限される場合も想定し、屠体給餌イベントについて説明文や図を見ただけの人が受ける印象等についてのアンケート調査や、実施場面の動画を視聴した人の印象等についての調査なども実施していく計画である。 また、駆除個体の肉食動物に対する屠体給餌の環境エンリッチメント効果を複数の手法を用いて検証していく。まず、令和2年度も実施した屠体給餌を受けた肉食動物に対する行動観察を、ビデオ撮影と直接観察の両方を用いて各地の動物園の各種の肉食動物に対して実施し、通常給餌時と屠体給餌時における行動を比較分析していく。実際には、行動時間の配分の変化や行動パターン変化などを定量的に評価していく。次に、給餌に用いるイノシシやシカの屠体の栄養成分が通常餌と異なる部分があるのかについて栄養分析を実施し、比較を行っていく。また、屠体給餌された後の消化状況や栄養吸収状態について、糞の化学分析などを実施し、通常給餌時との比較を行っていく。さらに、屠体給餌によってストレスが緩和されているのかについて、ストレスホルモンの分析を行うことにより検証できないかの検討を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、様々な活動の制限やイベント等の自粛が生じた。緊急事態宣言等もあり、所属機関からの出張制限や、受け入れ先の動物園等からの受け入れや活動の制限が生じてしまい、動物園等への出張調査がほとんど実施できなかった。これにより、動物園において実際に駆除個体を肉食動物に屠体給餌して調査を行うことが制限された。まず、各地の動物園に依頼し、出張調査を行う予定であった肉食動物に対する環境エンリッチメント効果の行動観察調査が十分に実施できなかった。また、屠体給餌を来園者に見せながら環境教育イベントとして実施することに制限が生じたため、イベント参加者に対する環境教育イベントとしての効果検証(アンケート調査や聞き取り調査)についてもほとんど実施できない状況であった。以上のように、研究活動を実施する動物園等での活動に厳しい制限がかかったため、屠体の準備・購入費や出張旅費、行動観察のための機器等の購入費をあまり使うことがなかった。 令和3年度は昨年度よりは状況が改善し、出張等の制限やイベント等の制限が緩和されると考えられるので、昨年度に実施できなかった動物園等における肉食動物の行動観察による環境エンリッチメント効果の検証や、来園者に対する環境教育イベントとしての効果検証などを積極的に実施し、昨年度分の未実施分についても実施計画に盛り込んで進めていく。
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