研究課題/領域番号 |
20K03266
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研究機関 | 群馬県立ぐんま天文台 |
研究代表者 |
橋本 修 群馬県立ぐんま天文台, その他部局等, 研究員 (20221492)
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研究分担者 |
田口 光 群馬県立ぐんま天文台, その他部局等, 研究員 (20356132)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 天体物理学 / 恒星物理 / 分光スペクトル / 公開天文台 / 観察用望遠鏡 |
研究実績の概要 |
観望光学系を持つ150cm級の大型望遠鏡を対象に分光画像と直接像の色を同時に観察できる接眼分光器を開発し、それを用いた天文学教育の可能性をこれまで調査してきた。その結果、直接像に見られる対象天体の色と分光されたスペクトル画像の関係を同時に直接比較しながら観察することが、天文学・天体物理学の基礎でありながらやや難解な天体分光の本質を直観的に理解するために極めて有効であることが明らかになった。本研究では、より小型の望遠鏡でも効果的に利用できる新たな接眼分光器を開発し、この種の教育手法の機会を大幅に拡大し、国内外の様々な天文台の多様な望遠鏡で実施可能な教育プログラムとして広く展開することを目指している。 この種の接眼分光器は、我々が150cm望遠鏡に最適化して独自に開発したものが世界唯一となる独創的な装置である。そこで、研究の初年度に口径50cmから1m程度の望遠鏡でも効果を発揮できるような装置の開発を行い、その試作1号機を製作した。分光光学系に市販の小型分光器をそのまま導入するなど、性能を犠牲にすることなく製作コストを可能な限り低減し、より多くの現場へ導入し易くなるようにすることにも留意している。設計や製作に時間を要したため、完成は年度終盤になったが、ぐんま天文台の望遠鏡を用いた試験で、その性能が概ね期待通りのものであることが確かめられている。その一方で、試作機では分光画像の幅や直接画像の見え方などに軽微な問題があることも判明しており、その調査と解決手法の検討を行っている。 ぐんま天文台以外の望遠鏡に取り付けての調査も計画していたが、装置の開発と製作に時間がかかったのみならず、ウィルス感染の影響で外に出かけることがままならない状況であったために、そのような活動は次年度以降に持ち越されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画の中核となる接眼分光器の試作機を無事完成させることができた。製作に時間を要したものの、ぐんま天文台の望遠鏡を用いて概ね期待通りの性能と特性を持つ装置であることが確かめられ、量的には不十分ながらも実際の観察に供用することもできている。改良や調整をすべき箇所も見い出されているが、比較的軽微なもので、原因もほぼ特定されており、今後の計画に深刻な影響は与えないものと見られている。 本来であれば、ぐんま天文台以外の多様な望遠鏡を用いて、その性能の確認に加えて、多様な教育手法の可能性を検討することも計画されていたが、ウィルス感染の影響でこの種の活動は一切実施することができなかった。しかし、もとより初年度は試作機の製作が主たる作業となる計画であり、外部への進出ができなかったことの影響は今のところそれほど大きなものとはなっていない。 一方で、外部機関での活動のみならず、ウィルス感染は学会や国際会議などへの参加を著しく制限する結果ともなっている。少なからぬ会議でリモート形式での発表などは可能となっているとは言え、そこに参加する様々な研究者や天文学教育の関係者などと直接的な議論ができる機会は大幅に減少している。このため、多様な背景や環境にある個性の異なる望遠鏡での活用や、そこでの調査・研究を実施するための具体的な活動計画を策定・準備・実施することに支障が生じている。現時点ではまだ深刻な状況とはなっていないものの、本研究計画全体の中では核心を占める部分であり、今後の計画の進展には大きな不安を感じている。
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今後の研究の推進方策 |
接眼分光器の試作機で見い出された問題点を定量的に評価し、是正する具体的な改良計画を策定する。これに基づいた改造を試作機に施し、ぐんま天文台の望遠鏡での観察を実施することによって、その性能と有効性を改めて評価する。 本来であれば、国内外の様々な望遠鏡での試用も行い、その汎用性を拡充し、多様な環境での天体物理学教育の可能性を開拓する計画である。しかし、ウィルス感染の影響で移動が困難な状況が今後も暫く継続する可能性が高く、そのような状況が続くのであれば、当面の期間はぐんま天文台にある複数の望遠鏡のみを駆使して研究を進めるつもりである。ここには、口径15cmから150cmまでの個性が異なる望遠鏡が複数台存在するため、外部に出向くことができなくとも、初期段階の装置の評価や具体的な教育手法の検討はある程度可能であると見込んでいる。 しかし、各地の公開天文台や大学のキャンパスなどにある、性能や特質も異なる様々な望遠鏡においても新たに開発した接眼分光器の特性を最大限に発揮させ、天体物理学の効果的な教育手段として活用することが本研究の本質的な目標である。それを実現するためには、やはり多種多様な望遠鏡での実践的な調査が不可欠である。感染状況に留意しながら、可能性を模索するつもりである。 また、研究の進捗や成果は論文などの出版物や学会、研究会などで随時報告する予定である。学会や国際会議は、多くの関係者と様々な可能性や問題点を議論できる機会でもあり、ウィルス感染が流行する状況であっても、そのような機会を最大限活用でるよう努力したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
異なる環境にある様々な天文台の多様な望遠鏡を用いて、本研究で開発した接眼分光器の試作機の性能や有効性の確認と具体的な教育プログラムの実践を調査する計画であったが、装置の開発に時間を要したうえ、ウィルス感染の影響で外部に出かけることが困難になってしまった。国際会議や学会などでの発表や議論の機会も奪われることとなったため、旅費や外部での活動に準備していた予算を執行することができなかった。
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備考 |
天体物理学の基礎を主に観測の視点から解説する動画である。分光観測にも重点が置かれ、接眼分光器で見える天体の色とスペクトル画像を対比した資料なども提示されている。
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