研究課題/領域番号 |
20K03267
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
田口 哲 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (60281862)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 深い学び / 探究 / 中学校理科 / 高校化学 / 電気化学 / ダニエル電池 / 鉛蓄電池 / 化学実験教材 |
研究実績の概要 |
「深い学び」の実現に寄与する化学実験教材を研究代表者の専門領域である電気化学分野を例に開発し,その教材を教育現場での実践に実際に活用することで,探究が促進されるか否かの観点から教材の効果を検証することが本研究の最終目的である。 高校化学の電気化学分野(エネルギー変換)では亜鉛電極と銅電極からなるダニエル電池が取り上げられており,この電池は,新学習指導要領では中学校理科の「化学変化とイオン」の単元でも取り扱われるようになった。教科書では,この電池は生徒実験として設定されているが,①準備に時間がかかる,②劇物の廃液が出る,③様々な電極の組み合わせで電池性能を探究的に調べるには時間がかかる,④探究ではなく演繹的な確認実験で終わる,といったことになりがちである。 本年度は,上記課題解決のために昨年度開発した「電解質水溶液入り寒天接触型電池」において探究活動促進の点から新たに課題となった「電極反応の可視化」に取り組んだ。具体的には,寒天で固めた硫酸亜鉛水溶液に亜鉛電極と銅電極を挿入し,銅電極と上記寒天との界面に硫酸銅水溶液を1滴だけ接触させた新規ダニエル電池を考案した。これを放電することで,①硫酸銅水溶液の青色が薄くなることで溶液中から銅イオンが消費されていること,②銅電極上の硫酸銅水溶液接触部の黒色析出物を銅電極から剥がすと金属光沢が見られ銅が析出していること,③亜鉛電極の金属光沢が消え亜鉛が溶解していること,を確認でき電極反応の可視化が可能となった。 さらに,二次電池の理解のために高校化学で扱われている「鉛蓄電池」に関して,昨年度考案した「硫酸水溶液の代わりに寒天で固めた硫酸ナトリウム水溶液を用いることで安全に作成・実験できるマイクロスケール化鉛蓄電池」における充放電前後の電極表面の状態を走査型電子顕微鏡で観察し,硫酸を用いなくても鉛蓄電池として機能する理由について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度に開発した実験教材を教育実践で活用し効果を検証する予定であったが,コロナ禍において実践で効果を検証するところまでに至らなかったため。そのため,学会発表や論文発表に至らなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
まず,今年度新たに考案した「電極反応の可視化に対応したダニエル電池」の放電特性を「中学校理科・高校化学で取り上げられている一般的なダニエル電池」のそれと比較する。加えて両者の銅電極および亜鉛電極の表面状態を走査型電子顕微鏡等で観察し比較することで,両者の放電特性の違いと電極表面の状態等を関連付けて考察する。 ダニエル電池では,亜鉛電極が負極で銅電極が正極であったが,マグネシウム電極が負極で亜鉛が正極となる電池を構築し放電することで,これらの電極の表面状態を走査型電子顕微鏡等で観察し,その表面状態から同じ亜鉛電極でも負極になる場合と正極になる場合とで反応の進行方向が異なることを可視化し,「深い学び」を実現する化学実験教材とする。 「鉛蓄電池」については,今年度研究した「硫酸水溶液の代わりに寒天で固めた硫酸ナトリウム水溶液を用いることで安全に作成・実験できるマイクロスケール化鉛蓄電池」について,充放電回数の違いによる電極表面状態の違いについて精緻に調べる。加えて,電解質水溶液を硫酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウム等の水溶液に変えた場合の鉛蓄電池の充放電特性や電極表面状態についても調べ,化学教育用として適切な「マイクロスケール化鉛蓄電池」の開発を進める。 上記の通り開発した化学電池の実験教材について,コロナ禍が落ち着き教育現場での実践が行える状況になり次第,実践での効果の検証を開始する。その際は,①日々忙しい教員にできるだけ負担がかからずに作成可能,②劇毒物の使用量を可能な限り削減,③「深い学び」が実現できる扱いやすい教材,といった観点から効果を検証する。新型コロナウイルスの感染状況を踏まえ,最終年度までに中学校・高等学校の教育現場での実践での効果の検証が難しい場合は,大学(教員養成課程)での検証に切り替える予定である。加えて,教材開発の部分での学会発表・論文執筆を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況の遅れ並びにコロナ禍のため当初予定していた学会発表が行えなかったため,計上していた旅費等を使用しなかったことが次年度使用額が生じた主な理由である。次年度使用額については,次年度,コロナ禍が落ち着き対面で学会が行われれば,その参加旅費に充て,もしオンライン学会等になれば,物品費・謝金等に充てる予定である。
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