研究課題/領域番号 |
20K03271
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研究機関 | 上越教育大学 |
研究代表者 |
布川 和彦 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (60242468)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 算数教育 / 分数 / 数と量 / パターンの科学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的のために、令和2年度においては次のような作業が試みられた:(1) 数学をパターンの科学とする視点に基づく分数の学習の枠組みを構築すること;(2) 構築された枠組みを利用し現行のカリキュラムや教科書の分析を行うこと。 (1)については、まず分数という学習内容の特性を明確にするため、分数の特性を数学的に論じた諸研究を検討し、数を量に対する変換として捉える立場と、数を公理的に構成する立場を特定した。そして、前者の立場は量や量に関わる操作を記述するための分数の利用として解釈ができ、後者は分数自体の操作に関わる規則から分数の諸性質を導く活動として解釈ができることを示した。そして算数における分数の学習においても、量に関わる記述をするために分数を用いる場面と、量を伴わずに主として規則に基づいた分数自体の操作を行う場面とが見出されることを示し、数学をパターンの科学とする視点を援用することで、量に関わる記述として分数を扱うフェーズから操作の対象として分数を扱うフェーズへ移行するという展開に沿った学習の枠組みを構築した。さらに、ディスコース論を援用して移行をディスコースの転換と捉え、それに関わる諸要素を採り入れ枠組みを具体化した。(2) としては、(1)の枠組みを用いた教科書の分析を試みたが、その際に、ディスコースという視点を生かし、学習が比較的成功していると考えられる初期の自然数の学習の場合と、ディスコースの作り方の比較を行った。その結果、自然数では早い時期に量の記述のディスコースから数自体を対象とするディスコースへの移行が生じているのに対し、分数ではその移行が先送りにされ、また移行が不明確であること、また自然数での移行においてはブロック図の利用が重要な役割を果たしているが、分数の学習ではこれに相当する表象が欠落していることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の研究計画は、数学をパターンの科学とする視点に基づく分数の学習の枠組みを構築することと、構築された枠組みを利用し現行のカリキュラムや教科書の分析を行うことであった。 前者に関しては、数を数学的に考察した諸研究を検討して分数の特性を明らかにし、その特性を基礎としながら、数学をパターンの科学とする算数から数学への移行の枠組みを、算数内部でほぼ学習が完結する分数の学習に適用する方法を探究した。その結果として、量や量に対する操作を記述するために分数を用いる学習のフェーズと、分子と分母からなる分数の表記法を基礎として分数自身に対する操作を施し、そこから分数の諸性質を導出する学習のフェーズとを区別することで、パターンを記述することからパターン自身を考察の対象とすることへの移行というパターンの科学の視点に基づく枠組みを、分数の場合にも適用するという方策を見出した。また以上の成果について論文としてまとめた。 後者に関しては、パターンの科学を適用して構築した分数学習の枠組みを参照しながら、算数の教科書の分析を行った。その枠組みに組み込まれたディスコースの要素を特に視点として、教科書をディスコースの移行の点から検討をしたところ、分数が導入される小学2年や3年の学習では小学1年の自然数の学習に比べて量に関する記述に留まる時期が長く、数自身を対象とする学習が現れる時期が遅れる傾向にあること、また自然数の学習において移行を促進すると考えられるブロック図のような半具体物に相当するものが、分数の学習では明確ではなく、そのことが分数の学習における移行を生じにくくしていることが見出された。後者の成果についても別に論文としてまとめた。 以上の進捗状況に鑑み、報告のような達成度であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
数学をパターンの科学とする視点を生かしながら分数概念の理解を改善するカリキュラムや学習活動系列を開発するいう全体的方向性には変更がなく、またその基礎的な作業である上記の視点を援用した分数の学習の枠組みの構築と枠組みに基づく教科書等の分析を初年度に行ったことから、今後の研究としては、当初の第2年度以降の計画に沿って進めることになる。 そのためまず第2年度には、初年度の教科書の分析で見出された問題点を考慮しながら、構築された枠組みに基づいて学習活動系列を開発することになる。初年度の成果を生かし、そこで構築された枠組みに基づくことから、量や量の操作を記述するために分数を用いることから、分数自体を操作や考察の対象とすることへの移行が生じるような活動の系列であること、またこの移行をディスコースの転換と考え、ディスコースの構成要素を前者のものから後者のものへと変更することを含むものを考案することが目指される。さらに、初年度の成果から、ディスコース転換の時期が遅くなっているとされたので、必要なディスコースへの転換がより早い時期でも可能であるかの検討も含めて、活動系列の開発を行う必要が出てきている。 なお、初年度においても小学2年と3年の分数の授業を記録することができたので、上述の活動系列を開発する際に、現在実施されている授業をディスコースの観点から分析し、そこから2つのディスコースの間の転換という点でどのような可能性があるかを考えることにより、活動系列の開発に生かすことを、本申請の目的をよりよく追求するための追加の作業として予定している。 第3年度は開発した学習活動系列に対する児童の反応を分析することを予定している。授業の様子や児童の学習の様子をビデオで記録し、それを分析することで、開発した学習活動系列によりどのような学習が生じうるかを検討していく。
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