研究課題/領域番号 |
20K03282
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
菱山 玲子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70411030)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | AI倫理 / AIリテラシー / 科学コミュニケーション / 技術教育 / 技術者倫理 / ケースメソッド / ケース教材 |
研究実績の概要 |
AI技術の実用本格化によりその恩恵を享受する社会が到来する一方,AI技術を正しく理解しそこに潜む各種のリスクを踏まえ適切な判断ができる能力を育成するAIリテラシー教育・AI倫理教育が求められている.本研究では,こうした教育プログラムの作成と体系化を進めている.本研究の取組みの特色は,ビジネスや医療分野の教育において研究・実践されてきたケースメソッドを,AIをとりまく問題群に適用することである.ケースメソッドは,現実社会に生じる事例をケース教材とし,これを学習者らが読み分析し,相互に意見を交換することで,学習者はそのケースに含まれる事実や問題をより深く理解することができる.この一連の活動を通じて,共通に見出すことができるリスクの判断や倫理的なコンセンサス構築を目指すことができる. 本年度は,平易なリーディングケースを設計し執筆のうえ,大学院生(理系)を対象として試験的にケース教育を実践し,その効果や特徴を明らかにした.設計したリーディングケースは,自動運転車による事故,オンライン試験監督システムの導入,美術品のデジタル復元プロジェクトの3ケースであり,それぞれ,AI倫理を代表するトピックである.教育実践はLMSを活用したワークショップ形式で,定量的・定性的(質的)な評価枠組みを超え,ケース分析活動,ピアレビューとディスカッション活動を組合せて行った.また,ケース教材による教育の前後でアンケートを実施した.実践の結果,ケースにより差はあるものの,倫理的側面の意識と広範な気づきを導出でき,新たに生じる技術やリスクへの理解の深まりが明らかになった.更に,技術を巡る対話を促す効果的な手法を見出すことができた.2021年度は,AI倫理を巡る多様な問題を扱うケース教材を更に蓄積し,体系化へとその幅を広げる.同時に指導書も整備し,教育プログラムとしての運用設計と実践を深度化する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は実験的にケースメソッドを実施するためのケース教材の執筆と実験ケースの制作を行う計画であった.ケース教材の執筆については,自動運転車による事故,オンライン試験監督システムの導入,美術品のデジタル復元プロジェクトの3ケースを設計・執筆することができた.更に,実際に大学院生向けのAI倫理教育プログラムで適用し,評価することができた点で,概ね順調に推移したといえる.また,実験ケースについても試作を行い,一部被験者からの評価を得ることができた. 先のリーディング教材として執筆した3ケースは,実在の人物や団体,環境とは何ら関係がないフィクションとして記述されているが,オリジナリティの高い内容となっており,かつ,AI倫理上の様々な問題設定を含んでいる.教材ごとに異なる論点を有しており,それ自体に価値が高いものと考えられる. このケース教材の運用を検討する段階で,研究の副産物として,LMSの高度な活用についても検討することができた.教材はオフライン教育でもオンライン教育でも活用が可能であり,様々な活用方法も提案できる. 2年目は,更にこれまで対象としていなかったAI倫理のトピックをケースとして執筆する.人種・性差別・偏見の増長にまつわるもの,ヘイト・テロ・デマの増幅などがその一例である.併せて,これらのケース教材を有効に学習プログラムとして利用するための指導書を整備する.
|
今後の研究の推進方策 |
研究の推進にあたっては大きな方向性の変更はないが,ケース教材の体系化にあたってはAIを巡る倫理的な問題群を網羅的にカバーすることが期待される.このため,引き続き関連する諸問題を巡る先端的な情報の把握に努めると共に,ケースメソッドに適用可能なトピックであるかどうかを検討し,リーディング教材として執筆する場合はその設計を行うこととする. 実験ケースについては,誰にでも実験できるような平易なマニュアル作成が重要であり,この点でドキュメントベースのみに留まらず,必要に応じてオンデマンド・ビデオ教材も組合せることを検討する.このことを通じて,教材のマルチメディア化についても検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は,COVID-19による影響により学会発表のための出張を行わなかったため,使用額に変更が生じた.COVID-19による影響を勘案しつつ,2021年度以降に,学会発表出張を繰り延べる計画としている.
|