本年度は,昨年度までの研究成果を発展的に拡張し,ネットワークモチーフ分析手法をAI倫理教育のためのケース教育に適用し,その効果や特徴を明らかにした.当該年度に対象としたケースは,日本の就職過程で起きたAI倫理問題である.ケース教育を通じて得られた,ケース討議のテキストデータやアンケートデータに対して,ネットワーク分析を適用することで,本研究のケースと分析手法の有効性が示され,参加者のAI倫理に対する見解が有意に変化したことが明らかになった.これらの成果は,国際会議や国内会議で発表され,AI倫理教育の重要性を国内外へ発信することが出来た.本取組は,AI倫理研究において未踏の領域となっていたネットワークモチーフ分析手法を,新たな視点で活用し,AI倫理研究分野に新たな示唆を与えることが出来たという点において,重要な学術的意義を有している. 本研究課題全体を通じて,AI技術を正しく理解しそこに潜む各種のリスクを踏まえ適切な判断ができる能力を育成する「AIリテラシー」教育に資するAI倫理教育の体系化を達成することが出来たといえる.具体的には,AI実験ケース教材とリーディングケース教材をセットとしたケース素材を複数準備し,大学の講義でケース素材を活用した教育プログラムを展開し,結果の解析によってその有効性を明らかにした.このように体系化された教育プログラムを一般公開し,広く社会に発信することによって,様々な教育場面での,AI時代に新たに生じる技術やリスクへの理解,技術を巡る対話が期待される.なお,本研究全体の研究成果は,雑誌論文1本,国際会議論文1本,国内会議論文4本で,社会発信されている.また,本研究課題の成果は,国内会議「情報科学技術フォーラム(FIT)」にて,FITの全論文件数の1.5%を上限として選定されるFITヤングリサーチャー賞を受賞しており,その研究意義の高さが示された.
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