研究課題/領域番号 |
20K03283
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
浪川 幸彦 椙山女学園大学, 教育学部, 教授 (20022676)
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研究分担者 |
白井 朗 椙山女学園大学, 教育学部, 教授 (70454345)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 数学リテラシー / 数学教員養成教育 / 数学的な見方考え方 / 教科内容学 / 教育の現代化 / OECD Education 2030 |
研究実績の概要 |
本研究は,数学の教科内容を,数学リテラシー概念を基礎に「今世紀すべての人が持つべき(体系的な)知識」として明確化し,学校数学教育カリキュラムを理論的に基礎付けること,および「数学教員の持つべき数学リテラシー」を具体化して前者の教授法を研究することを目的としている。 そのため申請計画に従って3方面で研究を進め,第2年度は次の成果を得た。 1.数学リテラシー概念の再構築とリテラシー概念の教科を越えた一般化(以上計画):今年度も新型コロナ感染症のため,研究集会は殆ど中止または遠隔となり,文献研究が主となった。文献収集は,歴史的視点を持つものを中心とし,その研究はなお継続中である。リテラシー概念の一般化については教科内容学会での研究報告書公刊を受け,今後の方針について論じた。特にこの方向性が,半世紀前に主張された「教育の現代化」の21世紀版に当たるとの着想を得,当時の理論的主柱 Jerome Brunerの研究を進めつつある。一方新たな方向性として OECD Educatio 2030 について学んだ。 2.今世紀日本人の持つべき数学リテラシーを具体化する研究を,「科学技術の智」プロジェクト報告書の改訂および「数学的な見方考え方」の明確化として行う(以上計画):これも初年度同様文献研究および川添充氏の科研費研究「「高水準の数学的リテラシー」概念に基づく大学数学教育の教授法の開発」への研究協力の形で行った。前者では日本数学教育史と微分積分学の成立について集中的に学び,後者ではモデリングについて主に学んだ, 3.中高数学教員の持つべき数学リテラシーの具体化とその教授法の開発を教科教育法の教材研究として実践的に研究する(以上計画):名古屋大学で「数学科教育法Ⅰ」「同III」として当該内容についての授業を引き続き担当し,実践研究を実施した。またFacebook等を通じた意見交流も引き続き行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.研究代表者による前回課題計画の中心であった「リテラシー概念の教科を超える一般化」が前年度の報告集公刊により一つの成果としてまとまり,本研究の方向性が具体的に明らかになった。そのため文献収集対象も上の概要に記した様に明確となり,それらについて現在研究途上にある。Brunerについては,その基本的著作の収集はほぼ終わり,その影響についての文献を学ぶことで,研究代表者自身の研究活動との接続がほぼ明らかになり,また本研究の方向性の正しさも確証された。その結果考えるべき課題は明確になったものの,同時にその数学教科における具体化の困難さもまた自覚されつつある。 2.3.数学教育に関する文献研究においては,数学史および日本の数学教育史の浩瀚な研究が公にされたこともあり,それらの研究の中から日本の教育の中での本課題の位置付けが明らかになった。また微積分学成立史の研究から以下に述べる実践研究への大きな示唆を与えられた。 一方昨年同様名古屋大学における「数学科教育法I」の授業を再び実践したが,その中で「科学技術の智」報告書の内容を深く振り返っている。また授業実践そのものが「数学教員の持つべき数学リテラシー」を考えることになっている。加えて川添氏達との共同研究の中でモデリングについて学び,その高度リテラシーとしての応用研究が進展しつつある。また前年度に続き,Facebookでの大学入試問題を含む様々の問題解決,あるいは OECD での新しいキーワードであるAgencyについて議論し,その記録を資料として積み重ねている。 以上から,未だ論考としてまとまってはいないものの,研究としてはその方向性がより明確なものとなったとの意味で,ほぼ順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
1.数学リテラシー概念の再構築と一般化については,Bruner を中心とする文献研究を,特に60年代米国の「現代化」および70年代日本の「数学教育現代化」を批判的に検討することを中心に進める。一方で新しい流れについては,教科内容学会内に立ち上げられたSTEAM教育を中心とする新たな研究プロジェクトに参画する中で,小職はむしろ古典的なリベラルアーツからの歴史的流れを重視して考察を進める予定である。さらに OECD Education 2030についても考察を深める。 2.日本人の持つべき数学リテラシーの具体化:上記「現代化」の批判的検討を踏まえた数学教育カリキュラムの基礎付けの素案を提示する。これは「科学技術の智」報告書の改訂に当たる。特に日本における上記「現代化」の批判的検討および遠山啓等の同時代の著作の検討を踏まえ,「数学的な見方考え方」の具体化を図る。また数学史的研究の与える数学教育カリキュラムへの示唆についても,さらに研究を深める。 3.中高数学教員の持つべき数学リテラシーの具体化とその教授法の開発:引き続き名古屋大学での「数学科教育法」の講義を担当し,これに改善を加える。またこれを教科書化することおよび理論化して論文とすることに着手する。さらに川添氏の新たな大学数学教育についての科研費研究に協力する形で,大学数学教師教育におけるリテラシー研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き,COVID-19感染症蔓延のため,出席予定のICMEをはじめとする国際・国内研究集会がすべて延期,リモート開催,あるいは中止となって使用予定の旅費を殆ど使用できなかった。そこで一部は資料購入費用に充当したが,残金は回復が期待される次年度以降の研究会参加,およびリモート会議用機材の充実等に充てる。さらに資料の一層の充実を図るべく,そのための経費としても使用する予定である。
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