研究課題/領域番号 |
20K03285
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
橘 淳治 神戸学院大学, 共通教育センター, 講師 (10359292)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 廃棄物原点処理 / 大学初年次 / 水環境 / 実験 / カリキュラム / 環境教育 / 教材開発 / 実証研究 |
研究実績の概要 |
水環境についての大学専門課程での教育・研究を推進する上で,大学初年次の基礎教育は重要であるが,高校の特色化や入試制度の多様化,高大接続教育の未整備により,理科に置いては,大学入学者が理科の総ての科目を履修しておらず,大学初年次教育の障害になっている. 本研究は,これらの課題解決のため,①高大接続と大学専門教育の狭間を埋める環境教育に用いる実験教材と実験法の開発,②廃棄物原点処理に基づく水環境実験法の開発,③水環境教育プログラム開発と大学初年次授業での実証研究と手法の普及啓発を意図して行っている。 ①の環境教育に用いる実験教材の開発につては,主に水環境教育,河川教育に重点を置き高校の理科の基礎を付した科目(化学基礎,生物基礎,物理基礎,地学基礎)の履修を前提として,視覚的に捉えることができるものを意図している。 基礎実験を基に,標準色列法による水の化学分析実験とそのマニュアルを作成中である。 ②の廃棄物原点処理であるが,環境教育の視点から,水環境を化学的な手法により研究する過程で実験廃棄物が生じるが,廃棄物の排出そのものが問題である。この解決のため,マイクロスケール実験による実験廃棄物の低減のほか,廃棄物を極力出さない,或いは,自前処理が可能な廃棄物に抑えることができるように,毒性の少ない試薬類の使用や分析法自体の再検討を行っている。今年度はマイクロスケール実験による水分析のデータ収集とマニュアル作成を行っている。 ③については,①により実証研究段階の教材と②によるマイクロスケール実験を組み合わせた教材を用いた実験法を,大学初年次の理科概論Ⅰおよび概論Ⅱで学生実験に用いることを計画し,セットの準備まで完了した。しかしながら,Covid-19による大学の授業がオンライン授業となったため,演示実験と講義のみになり,学生実習ができない事態であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)「高大接続と大学専門教育の狭間を埋める環境教育に用いる実験教材と実験法の開発」に関しては,高校の化学基礎,生物基礎,物理基礎,地学基礎の履修を前提として,文系出身者においても,比色分析の基本原理と化学実験の基礎からの指導により分光光度計などの機器類を使わない標準色列法による実験教材を準備とその暫定版マニュアルができた。大学初年次学生を対象としているため,発色や色調の変化など視覚的に捉えやすい実験教材の作成が概ねできた。 (2)「廃棄物原点処理に基づく水環境実験法の開発」に関しては,環境系の学生実験であるため,環境教育の観点から,実験をすることにより廃棄物を出すことは極力避けるべきである。水環境の化学分析には各種の方法があるが,本年度は教育効果を可能な限り落とすことがないレベルでのマイクロスケール実験を考え,その教材と暫定版のマニュアル作りを行った。 (3)「水環境教育プログラム開発と大学初年次授業での実証研究と手法の普及啓発」関しては,前半部分の水環境教育プログラムは,水環境教育,河川教育を大学初年次の理科概論Ⅰおよび概論Ⅱに取り入れたシラバスを作成した。評価の観点も理科的側面と環境教育的側面の両者から行う評価計画を作成した。 後半の授業での実証研究であるが,こちらについてはCovid-19に係る授業のオンライン化のため,学生実習を行うことができず演示実験のみとなり実習の評価ができなかった。 次年度については,実習の実施とその評価を2年目の研究課題と併行して行う予定にしている。 Covid-19の感染拡大防止のオンライン授業が引き続き行われる可能性もあるため,2021年度研究においては,オンライン授業における水環境基礎実験についても研究を加えたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
高校の特色化や入試制度の多様化に伴い,大学入学者の高校理科の履修状況に大きな差が生じており,さらに,高等学校の理系科目における内容の高度化や授業時間不足などから実習があまり行われていない実情がある。そのため,実験・観察などの基礎技術を持たない学生が入学してくる現状がある。そこで,大学の専門課程における授業,研究にスムーズに入れるように,高校の基礎を付した理科(生物基礎,化学基礎など)程度の知識を基本とした,大学初年次の化学系水環境教育プログラムの構築とその教材作成の必要性と意義は大きい。 化学の基本的な原理と実験手法を基礎から身につけさせ,水環境を化学的に調べるという一つの目的をはっきりとさせ,最終的には水環境を守るというゴールを示すことにより,学生は学習しやすいと考えられる。また,学生の化学に対するハードルを下げる意味でも,可能な限り機器類を使わず,また,発色の強度や色調の変化など視覚的に捉えやすい比色分析が適していると考えられ,それを主軸とした実験法とその教育プログラムの開発を続けて行く予定である。 さらに,水環境教育,河川教育の観点から,廃棄物の無い実験を心がけたいが,実際は廃棄物が出てしまう。そこで,廃棄物の低減や実験者自身が自前で廃棄物を処理する「廃棄物原点処理」は重要な課題である。過去に高等学校の理科教員の研修を担当していたが,その過程でも「廃棄物原点処理」の教材と教員研修カリキュラムを作成してきた。 本研究においては,大学初年次化学系実験において,教育効果を保ちながら廃棄物量を減らすマイクロスケール実験の開発のほか,グリーンケミストリーの観点から,実験に用いる試薬や実験方法そのものの変更,また,実験廃棄物を実験者自らが処理する「廃棄物原点処理」を基盤とした実験法の開発を行い,研究成果の社会的還元のため,実験教材,マニュアル,教育プログラムの公開と普及を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は,主に備品(分光光度計および分光光度計制御用パソコン)で,天然水(河川,湖沼)の水分析と大学初年次化学系水環境分析実験を比色法により行う予定をしていた。 実験に用いる日本各地の天然水の採水を行い,その試水を実験法開発のための試料水と学生実験用の試料水として用いる計画を立てていた。ところがCovid-19の感染拡大による大学での県外への出張の禁止措置などで,採水に出かけることができなくなり,そのため,2021年度の研究で使用すべきろ紙やピペットの購入を行った。 また,年度末に実験教材の開発過程の記録や実証授業の記録用の動画撮影カメラの購入を予定し業者発注をかけたが,Covid-19関係のテレワーク増加により,動画撮影カメラの在庫不足による年度内入手が不可能等となった。そのため,動画撮影カメラ購入予定額(48,537円)の残額が生じた。
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