研究課題/領域番号 |
20K03289
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
品田 瑞穂 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (70578757)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 被害的認知 / 認知のゆがみ / 関係性攻撃 / 成人期 / 職場いじめ / 共感 / 視点取得 / 縦断研究 |
研究実績の概要 |
R3年度は,R2年度に実施した横断研究の成果を学術論文としてまとめ,査読付学術誌に投稿した。既に数回の査読を経ており,修正・再投稿中である。並行して,被害的認知,共感,攻撃の影響過程モデルを分析するため一カ月の間隔を置いて同一対象から2時点で回答を得る短期的縦断研究(調査III)を実施した(n=263)。調査I・IIにおいては,他者一般を想定した質問紙調査を実施した。調査IIIでは調査I・IIにおいて得られた結論が特定の対人関係に適用可能かを検討するため,「職場」を想定して成人に対して調査を実施した。また,攻撃性の指標としては,R2年度の調査(調査I)では身体的攻撃を含む攻撃性全体を測定する尺度を用いたが,発達段階が進むにつれ身体的攻撃が抑制されること,職場における攻撃行動(職場いじめ)の形態の多くを関係性攻撃(陰口や人間関係の操作など)が占めることから,本年度の調査では攻撃性の指標として関係性攻撃尺度を用いた。なお,R2年度の調査(調査II)では大学生を対象として作成された尺度を成人に適用したが,適合度が十分ではなかったため,本年度の調査においては成人を対象とした国外の研究で用いられている尺度を翻訳して使用した。また,R2年度の調査(調査II)において,被害的認知は攻撃性に直接の効果を持つことに加え,自己中心的な認知のゆがみを通して攻撃性を促進する可能性が示唆されたため,調査IIIでは被害的認知,共感,攻撃性に加え,自己中心的な認知のゆがみを測定した。重回帰分析の結果,Time 2における能動性関係性攻撃に対し,Time 1における関係性攻撃被害の認知が正の効果を持つことが示された。また,Time 2における反応性関係性攻撃に対しては,自己中心的な認知のゆがみとTime 2における関係性攻撃被害の認知が正の効果を持つことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の調査により,被害的認知と共感,攻撃性との間の影響過程モデルが検討され,被害的認知と攻撃性の因果関係についての知見が得られた。ただし,短期的縦断研究は時間的順序により因果関係を示唆するが,要因を操作していないため,因果関係を直接の検討ではない。このため,調査IIIの結果から示唆される因果関係を検討するため,実験研究を行う。なお当初の計画では,実験研究の結果をふまえ,短期的縦断研究を実施する予定であったが,R2年度からR3年度にかけてCovid-19の流行により対面授業が大きく制約され,実験室実験の実施が困難な状況であった。このため,計画を変更し,短期的縦断研究を先に実施した。R4年度は対面授業が主として行われているため,計画していた実験室実験を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度は,被害的認知と共感性,攻撃性の影響過程について検討するため,R2年度・R3年度に得られた横断調査・短期的縦断調査の結果をふまえ,実験研究を行う。具体的には,本年度の調査により,被害的認知と共感,攻撃性との間に,…という結果が得られた。これらの結果から,職場における関係性攻撃を促進・抑制する要因として…があることが示された。この結果をもとにR4年度は…を操作する実験を実施し,被害的認知,共感,攻撃性の因果関係を検討することを計画している。またR3年度の調査の結果をR4年度の学会で報告し,論文としてとりまとめる準備を行っている。なおR3年度の調査IIIにおいて,得られたサンプルの年齢に偏りがみられたため,実験室実験の実施が困難である場合には,より年齢の偏りの少ないサンプルを対象に縦断調査を再度実施することを検討する。 また,調査IIIにおいては前年度までの調査I・調査IIと一部一貫しない結果が得られた。具体的には,調査I,調査IIにおいて用いた被害的認知尺度は,同時点における関係性攻撃と正の関連があったものの,Time 1とTime 2の変化量には効果を持たなかった。これらの結果の解釈が可能になるよう実験計画を修正し,実施することを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
資料として図書を購入する際,図書館を通して購入したため割引されたことと,所属研究機関の予算の締切が例年に比較して早かったことから,若干の未使用額が生じた。残額は当初計画通り物品費・その他として使用する。
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