研究課題/領域番号 |
20K03292
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
尾崎 典子 香川大学, 医学部, 助教 (30851977)
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研究分担者 |
谷本 公重 香川大学, 医学部, 教授 (10314923)
鈴木 麻友 香川大学, 医学部, 助教 (10786528) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 不登校 / 不登校経験者 / インタビュー / 環境 / 経験 / リソース |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,不登校の状況や支援方法について当事者の立場から検証し,社会参加に結びつく効果的アプローチを導き出すことである. 本研究では過去に不登校を経験した元児童生徒に半構造化面接によるインタビューを行い,当事者の視点から幼児期から現在までの記憶に残るエピソードやその時の気持ち,受けてきた支援に対して抱いた気持ちを尋ねた.併せて,1980年代からの時代背景や政策と支援方法の活用状況を確認した. インタビュー結果を,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach M-GTA)を用いて分析した. 分析の結果,小中学校時代不登校・不登校傾向であった元児童生徒の不登校のきっかけと不登校時に受けた支援,その後の経験や気持ちについて52の概念から20のサブカテゴリー,9のカテゴリーが生成された.不登校を経験した児童生徒は《家庭環境の変化を消化できない》《学校生活に対するネガティブな気持ち》という【折り合いの付かない環境】で不登校になった.不登校時は,家庭訪問,保健室登校,別室登校などの支援を受けたが,【その支援が自分に合う】場合と【その支援が自分に合わない】場合があった.中学校卒業後は【自ら求める環境に向かって行動する】ことで,進学先や職場において【新しい環境で折り合いを付けて充実感を味わう】経験ができていた.一方,【新しい環境に折り合いが付かず自信をなくした】経験をしていた者もいた.現在は精神的,経済的,社会的な【支えとなる環境(リソース)がある】状態であったが,その内容により【将来への希望】に対する【実現する自信】が異なっていた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1年目は,1984~2014年の32年間に研究代表者が対応した不登校・不登校傾向の児童生徒の中から特に家庭訪問や保健室登校など関わりが深かった元児童生徒を中心に対象者を選定し,同意を得られた7名にインタビューを行った.対象者の同意を得て録音し逐語録を作成した.まず,逐語録からケースごとに時系列で見た特徴的な語りをまとめた.また当事者が考える「不登校の原因」や「受けてきた支援に対する気持ち」など項目ごとにカテゴリー化する作業を行った. 2年目は,収集した情報や逐語録から,抽出した特徴的な語りを研究分担者とディスカッションしながら抽象度を上げてカテゴリー化していった.一方,ケースごとについても時系列でまとめたものを対象者の発達段階やライフステージに沿って分析を進めていった.ケースごとに困り感が強まる時期や原因,受けてきた支援方法やその時期,支援に対する気持ち,成長していく経過,現在に至るまでに経験してきたことから人生に影響与えていることを明らかにしていった.1980年代からの時代背景や政策とケースごとの経過を重ねて,支援の方法や活用状況,ネットの影響についても関連付けて分析をおこなった.その結果,不登校当事者がライフステージごとに必要とする支援や課題が明らかになった. 3年目は,これまでの研究結果をさらに修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach M-GTA)を用いて分析し,論文にまとめ学術学会に投稿した.また,研究で明らかになった「学校という比較的支援が得られやすい環境を出てしまうと,後は急に支援が乏しくなっていた」という不登校の支援における課題について,そのアプローチの方向性を探るために中学校や高等学校の進路支援担当者への調査に取りかかった.3年で研究を終了する予定だったが,さらに研究を進めていくことになった.
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今後の研究の推進方策 |
本研究において,中学校卒業後,【自ら求める環境に向かって行動する】ことで,進学先や職場において【新しい環境で折り合いを付けて充実感を味わう】経験ができていた対象者がいる一方で【新しい環境に折り合いが付かず自信をなくした】経験をしていた対象者もいた.このように卒業後の進路選択が不登校経験者の人生のターニングポイントとなっており,学校における進路支援が重要な役割を果たしていることが明らかになった.また,現在は精神的,経済的,社会的な【支えとなる環境(リソース)がある】状態であったが,その内容により【将来への希望】に対する【実現する自信】が異なっており,不登校経験者は学校を出てからも「行きづらさ」をかかえていることも明らかになった.厚生労働省において平成18年より地域若者ステーション事業が始まっているが,研究の対象者では利用している者はなかった.新しい環境に適応していくことが苦手な人たちにとってはハードルが高いと思われる.間をコーディネイトするなどさらなる手立てが必要である. そこで「社会的資源とそれを必要としている人をどのようにつなぐのか」について,学校と学校,学校と社会のつなぎ目に着目し,中学校や高等学校において不登校(不登校傾向)生徒に進路支援を行っている教職員を対象に質問紙調査を行う.そして調査結果を集計・要約することで進路支援の現状を明らかにし,不登校当事者と社会を結ぶためにどのようなアプローチがあるのかを導き出す.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も学会がオンライン開催だったため残が生じた.次年度は質問紙調査の実施を予定しているため通信費や事務用品の購入に使用する.また,投稿中の論文の掲載費用や対面による学会開催が可能になれば旅費にも使用したい.
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