研究課題/領域番号 |
20K03298
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
繁桝 江里 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (80410380)
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研究分担者 |
山口 裕幸 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (50243449)
林 直保子 関西大学, 社会学部, 教授 (00302654) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フィードバック / プロアクティブ行動 / チーム / リーダー / 研修 |
研究実績の概要 |
2022年度は2社の協力を得て、上司のフィードバック(FB)方法に関する研修を実施し、その前後の調査により、部下の協働的工夫や改善的発言が促進されるかを検討した。研修では、効果的なFB方法として組織的公正性、チーム性(目標・役割・協働の明示)、発展性(部下の発展が目的)、反応性(部下の発言へのFBや対応)を提示し、実践のためのグループワークを実施した。 事前調査の結果として、上司のFB方法は全体的に心理的安全性との関連が強く、協働的工夫との関連がそれに続き、改善的発言との関連はさらに弱かった。また、FB方法がこれらの関連を媒介してワークエンゲージメントに繋がることも示された。 事後調査において、上司のFB方法および部下の主体的行動に関する研修前後の変化を尋ねた結果、上司・部下ともに、悪い変化という回答は数%であり、変化なしが60%程度、良い変化が30%程度であった。ただし、部下対象の事前事後調査の数値を比較すると、上司のFB方法については、ほぼ有意差がなく一部評価が低下した項目もあった。研修という介入により期待水準が高まった可能性がある。一方、部下の主体的行動については、1社においては協働的工夫も改善的発言も増加した。また、上司が「FBの仕方に良い変化があった」と回答した場合、部下も同様に回答する傾向があり、さらに、主体的行動が高かったり高まったりする傾向が見られた。つまり、研修によってFB方法を改善できる上司がマネジメントに成功していることが示唆された。 以上により、FB方法の重要性が確認されたものの、FB機会自体が少なかったため研修効果としての数値的な変化は検証できていない。しかし、研修が上司の日頃の態度や行動に影響した可能性があり、それが部下の主体的行動を促進したことが示唆された。2社の結果の違いの理由は特定できていないが、以後企業特性に留意し研究を進める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い勤務形態が通常時とは大きく異なり、刻々と変化する状況において、仮説の検証が可能なデータを取得することは難しいと考え調査実施を見送った。2021年度もコロナ禍は続いていたものの、一般企業の勤務形態においては、その対応にある程度の安定が見られたためインターネット調査を実施した。なお、調査においては対面業務とオンライン業務を比較するという論点を新たに加えることとした。2022年度には、研究計画時には2021年度に予定していた研修およびその前後の調査を実施することができたが、全体として1年分の計画を後ろ倒しにしている状況である。 また、時間的な遅れはあるものの、研究課題の検討自体は計画通り進められているが、さらに上記に述べたような業務のオンライン化の動きに対応する必要性や、2022年度の協力企業2社の違いの検討など、新たに検討すべき課題が見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は協力企業の開拓に苦労したため、依頼の説得効果を高めるための下記の推進方策を取る予定である。具体的には、①2022年度の知見に基づく研修効果を説明することで協力のメリットを感じてもらう、②研修のオンライン化を整えることで、地理的および時間的な制約を弱める、③調査項目を整理することで、項目数を減らし負担を軽くする、という準備をしている。 また、研究計画時に予定していた研修におけるグループワークは、多くの要素を取り入れたことにより、研修転移という観点からの問題があった。具合的には、研修においてフィードバック方法のすべてのポイントをロールプレイで経験することや、リーダー役のフィードバック方法によるメンバー役の主体的行動の変化を実験的に検討することを計画していた。しかし、2~3時間という研修時間の中で、これらの指示を的確に行い、参加者に納得する形で体験してもらうことに無理が生じた。したがって、ロールプレイとして行うフィードバック方法を厳選すること、メンバー役の行動変化までを含めた実験的な検討ではなくリーダー役としてのロールプレイの効果に特化すること、という変更を予定している。また、グループワークの有効性を高めるため、統計的分析に必要な調査回答数が得られない中小企業に協力を依頼し、パイロットスタディとして研修のみを実施してその有効性を確認することも検討している。 さらに、2022年度の協力企業においては、研修後の1か月間に上司が行うフィードバックの頻度自体が少なく、0回や1、2回という回答で過半数を超えていた。このことは研修の事前事後の調査でフィードバック方法の変化が認識されづらいという問題に大きく影響したと思われる。そこで、以後の研修では、フィードバックの頻度自体を高めることを促し、フィードバック回数の具体的な目標値を設定してもらうことも検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で研究計画を先送りしたことにより、研究期間を延長したため、次年度使用額が生じている。また、実験的な研究の実施も困難であったため、その分の使用額が予定よりも少なくなっている。さらに、2022年度に研修および事前事後調査を実施した企業に対しては、研修の無料提供と結果の報告を行うことにより、謝礼の支払いが必要ではなかった。2023年度に協力を依頼する企業においても、個人への謝礼の支払いは生じない可能性が高い。 そこで、使用額が残る場合には再度インターネット調査を実施する予定である。なお、2021年度に実施したインターネット調査では、コロナ禍により企業の状況が通常とは異なる可能性を鑑み、調査対象者を研究計画時の1200名から約600名に半減させていた。2023年度の調査においては、研修企業から得られた知見から特に検討を要する課題に焦点を当てた調査項目を設定することとする。また、研修企業で得られるデータ数では分析できない複雑なモデルの統計的分析をすること、企業特性の影響なども含めその一般化可能性を検討することを目的とする。
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