研究実績の概要 |
本研究は、社会心理学や産業・組織心理学の観点から個人がどのように公正を知覚するのか、そのメカニズムの解明を目的としている。心理学において、公正さの概念は、多次元に捉えられてきた。すなわち、結果の公正、手続き的公正、対人的公正である。これに対して、本研究は大局的公正という単次元の公正概念を提起し、大局的公正知覚のメカニズムを実証的に明らかにしようと試みるものである。 2021年度は、公正多次元モデルの構成概念妥当性について検討した。結果の公正、手続き的公正、対人的公正の相関を報告しているメタ分析に注目した(Cohen-Charash, & Spector, 2001; Colquitt, Scott, Rodell, Long, Zapata, Conlon, & Wesson, 2013; Fassina, Jones, & Uggerslev, 2008; Hauenstein, McGonigle, & Flinder,2001;Cohen-Charash, Y., & Spector, 2001)。 様々なメタ分析が3変数間の相関を報告している。研究によってばらつきはあるが、おおよそ.45~.66というかなり高い相関が見出された。また、Le & Pan(2021)は、公正3変数に加えてoverall justice との相関を独自に調査した。統計的補正を加えて検討した結果、4変数間の間に.88~.90と極めて高い相関が示された。 これらの結果は、相関研究とは異なるアプローチで公正さを単一的に捉える研究の必要性を示唆する。そこで公正さではなく不公正さに注目した研究アプローチを提起し、不公正さと公正さの知覚の非対称性を検証する新たなヴィネット実験の計画を立てた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、多次元的な公正概念の妥当性に関して批判的に検討を行った。公正さの多次元性の理論的根拠として、増分妥当性 (incremental validity)があげられる。アウトカム変数を説明するために、各々の公正概念を加えていくと説明力が有意に高まる。この独自な説明力が個別の公正を仮定する根拠となっている。次に、結果の公正と手続き的公正を神経科学的な証拠があげられる(Dulebohn,Conlon, Sarinopoulos, Davison, & McNamara, 2009)。この研究は手続き的不公正にさらされた条件と分配的不公正にさらされた条件の間で、活性化する人間の脳領域が異なるというものである。手続き的不公正は認知に関わる脳領域は認知に関わる領域が活性化して、分配的公正は情動に関わる脳領域が活性化した。 しかしながらLe & Pan(2021)が指摘したように多次元の公正さは冗長である可能性が否めない。そこで我々は、公正さを一次元的に捉えるためのヴィネット実験を準備している。公正さと不公正さはルール順守(rule adherence)と不公正さはルール違反(rule violation)によって操作する予定である(独立変数の操作)。ルール順守とルール違反のシナリオは、Caleo(2016)のものを参考に作成する。従属変数は、公正知覚と不公正知覚の2種類を用意するが、これも独立変数として使用する。 測定のためのシナリオはほぼ準備できているが、コロナの影響で実際の実験が実施できていない。2022年度は、コロナによる行動制限が大きく解除されているので構想した実験を粛々と進めていきたい。
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