研究課題/領域番号 |
20K03303
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
村上 隆 中京大学, 文化科学研究所, 特任研究員 (70093078)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多重対応分析 / 主成分分析 / 正規直交性 / 重み行列の回転 / Quartimax 回転 / 社会調査 / 心理測定 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き,申請者が開発した「カテゴリカルデータのための正規直交主成分分析」の (1) 理論面の整備,(2) 分析結果の蓄積,(3) データの性質に合わせた適切な使用方法の検討を行った。 (1) の理論面では,従来あいまいなままであった,主成分数+1を超えるカテゴリー数をもつ変数に対する重み行列の部分行列に対する左からの回転方法について,quartimax 回転のルーチンがそのまま適用でき,主成分数を超える部分の重みは自然に0となることを示すことができたことが成果といえる。 (2) の分析結果の蓄積に関しては,以前申請者が行ったプロ野球の観客データ7年分について分析,再分析を行ったほか,Le Roux & Rouanet (2010)によるイギリス人の「好み」に関するデータを再分析した。前者は,行動計量学誌に査読つき論文として発表したが,査読者からは,「理論面のみならず,応用面からも有意義な結果である」旨の評価をいただいた。後者については,3次元空間内での回転が,しばしば数理的なアーチファクトとされる馬蹄現象について,それが興味ある経験的事実の反映であることを見出した。 (3) のデータの性質に合わせた使用方法については,対象者の反応からできるだけ多様な側面を見出そうとする社会調査の質問項目と,個人の特性をできるだけ正確に(高い信頼性をもって)測定することを目的とする心理測定の項目では,項目間相互相関に著しい差があり,これを同一のレベルで分析にかけると,後者の影響が強く出すぎ,意味のある次元が見出せないことが従来から問題であった。今年度は1つの試みとして,心理測定の複数の項目を一旦,潜在クラス分析によってカテゴリカルデータに落とし,社会調査項目と混ぜて分析することで,一定の成果を得た。この点については,社会調査と心理測定の目的に立ち返ったさらなる理論的研究が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書の研究計画からは,分析データの解釈から得られた知見が予想を超えたものであったこと,新型コロナ禍によって海外出張ができなかったこと等により,かなりの変更が必要となった。しかしながら,「カテゴリカルデータのための正規直交主成分分析」の研究としては,申請時に予期した以上の成果を得ており,上記の評価とした。 この方法の開発に対する基本的なモチベーションは,本来,非常に多くの次元上での個人差を反映しているはずの社会調査データの全体像を,分析の初期段階でわかりやすい(解釈しやすい)形で表現できるような記述的方法を得ることであった。この点についてはかなりの成功を収めたと考える。 すなわち,各変数のカテゴリーに正規直交な変量を与えた上で行われる回転を伴う主成分分析によって,解釈の手掛かりを空間表現から軸への負荷量に移すことにより,3次元を超える解の解釈が可能になった。それにとどまらず,回転による変数のカテゴリー化により,多重対応分析の長所であるグラフィカルな表現を任意に選択した2次元について行うこともできるようになった。このことは,多次元データの記述方法をより豊富にすることに寄与したと思われる。 他方,個人の特性を正確に把握しようとする心理測定データに関しても,厳格な確率モデルからの逸脱を示す対象者を分離する方法として有効であることが示されつつある。 こうした応用範囲の広がりと,特に分析対象となる変数の選択の大きな影響を考えると,R のコードの作成とその公開について,あまり性急な目標を立てることは適切でなく,現状の MATLAB のコードの洗練と分析結果の蓄積といった地道な作業を行うことが望ましいと考えるに至った。これについては,「今年度の研究の推進」の項で記す。
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今後の研究の推進方策 |
この2年間で得られた知見をできる限り査読付き論文として公刊することを主たる目的としたい。 第一は,今年度の「研究実績の概要」で記した,Le Roux & Rouanet (2010) のデータの再分析結果についてであって,これはいわゆる「研究ノート」レベルのものとなろう。 第二は,プロ野球の観客データの一部である心理測定型の項目に絞って分析する「測定次元から逸脱して,項目ごとに是々非々で反応する回答者の検出」といったタイトルのもので,こちらは,カテゴリーへの数量化についての工夫を含め,できれば原著論文として公刊したい。 第三は,主成分分析の重みの回転方法としての独立クラスター回転(Kiers & Ten Berge, 1994) の理論的な再検討(Independent cluster rotation revisited)といったものであり,正規直交主成分分析の理論的整備の過程で見出した quartimax 回転の特性についての理論的な検討である。これも原著論文になり得ると考えている。 これらに加えて,引き続きデータ分析結果を蓄積しつつ,データの選択と適切な前処理の問題についても取り組みたい。今年度中に一定の成果を得ることは難しいと考えるので,「社会調査と心理測定の橋渡しのための記述的多変量解析」といったテーマで,次年度の科研費の申請を行うことも計画中である。 プログラムに関しては,フリーソフト R への移植をはかることは時期尚早と判断し,有料ソフトウェアである MATLAB による現行プログラムの洗練と充実を図るものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が支出できなかったことの1つの理由は,新型コロナ禍により,海外出張ができなかったことである。また,フリーソフト R のコードの公表を差し控え,当面,現在使用している有料ソフト MATLAB のコードの洗練に方針を切り替えたことから,専門的知識提供謝金と旅費の使用もなかった。 今年度については,研究用図書とソフトウェア保守,ならびに英文校正が主な使途となるため,現在の残額を消化できる可能性は低いこと,および,新たに浮上した問題である,社会調査と心理測定データの性質の違いを反映する分析手続きの開発に関する研究の実施のため,さらに1年の繰り越しを申請する予定である。
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