研究課題/領域番号 |
20K03305
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 健康関連行動 / 災害関連行動 / 潜在的リスク / グラウンデッド認知アプローチ / 衝動的動機 |
研究実績の概要 |
本研究では、人々を取巻く環境がトリガーとなりさまざまな行動選択や経験を調整するプロセスを認知的メカニズムから解釈するグラウンデッド認知アプローチに基づき、健康関連行動や災害関連行動の潜在的リスクを可視化することを目的としている。2020年度は、日常の生活環境が行動を生じさせたり遠ざけたりする個人間と個人内の変動効果を検討するためのシステムを構築するためのシミュレーションを行った。具体的には、不健康な食品消費行動を対象にしたダイヤリー法による測定データを用いて、日々の個人内の変動と動機的要因などの個人間の差異の影響の違いについてモデリングを行い、環境と行動の変動の検出するためのアプローチ法を考査した。その結果、衝動的動機による日々の変動の影響に加え、食品のストック、味覚傾向、自己制御といった個人間の変動も関与しており、これらの用いた測定モデルの構築が重要であることが示唆された。 また、レジリエンスの影響をシミュレーション・モデルとして組み込むためのアプローチの検討を同時に行っている。西日本豪雨災害における住民を対象にした調査データから、災害からの復興プロセスの変動にレジリエンスが及ぼす影響を、災害時から約半年後までの時系列変化をシミュレーション・モデルとして解析を行った。その結果、従来の被害程度や年齢や性別といった個人属性が復興プロセスに及ぼす影響に加えて、レジリエンスの程度によって住民の復興のスピードに差異が生じることを明らかにした。 以上の研究成果により、個人内と個人間の変動を生じさせる要因が明らかにし、グランデッド認知アプローチを構築するためのモデルのシミュレーションとして、実査にむけたシステム構築として発展させることができた。本研究成果の一部は、2021年のヨーロッパ健康心理学会やJapan Geoscience Union Meeting 2021で発表予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、新型コロナウイルス感染症の蔓延する事態が続いたため、人々の生活行動を測定にバイアスを生じさせる懸念が高かった。そのため、実査にむけて測定変数を特定化するモデルのシミュレーションと、変動データの測定のシステムの構築に重点を置いた。不健康な食品摂取行動のモデル研究では、7日間の菓子の食品摂取行動を、FFQg法を用いてカロリーベースの日変動として可視化するシミュレーションを実施した。摂食行動に影響を及ぼす変動要因として動機的要因に加え、意図的動機の側面よりも衝動的動機の側面に変動が影響されることを明らかにした。また、スマートフォンの利用時間、食品のストックといった環境変数、習慣、味覚傾向、自己制御といった個人変数がこれらの変動に及ぼす影響を検討し、動機的要因を媒介して摂取行動を方向付けることを明らかにしている。 災害関連行動のレジリエンスのシミュレーション研究では、ベイズ推定を持いて、災害からの住民の復興プロセスの経時的な変化を促進する要因を可視化するモデリングを行った。レジリエンスが災害復興に直接影響を及ぼすのではなく、人的・物的被害の影響や年齢や性別による遅延の影響を緩和することで、不利な状況に置かれている人々の復興スピードを促進する効果があることを明らかにしている。復興が一律に進むのではなく、レジリエンスという個人間の変動に左右され、レジリエンスを数値化するアプローチの有効性を確認することができた。 これまでの研究成果の一部は、2020年度の日本心理学会で発表を行った。レジリエンスのシミュレーションの成果の一部は国際誌のRisk analysisに掲載され、災害復興の住民の変動を明らかにした新たな知見として評価されている。以上の成果に加え、新型コロナウイルス感染症の状況に応じて実査できる体制まで実施段階を上げた点を鑑みて、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言の発令などにより、商業施設の休業や自宅待機が推奨されるなど、通常とは異なる生活行動を取ることを人々に余儀なくされている事態が続いている。このような事態は日常の生活行動の変動を対象にした研究においては、測定データに想定外のバイアスを生じさせると考えられる。そこで実査に際しては、研究倫理上の配慮に加え、コロナ禍の社会的状況を十分に考慮し、人々の生活行動が安定的になった場面で行えるようにする。必要に応じて感染者数や政府や自治体が発令した法令の有無を制御変数としてモデルに組み込むことで、コロナ禍の影響を制御した分析を行う。 不健康な食品摂取行動の研究では、同じ人に一定期間に複数回の測定を行う経験サンプリングを用いて実施する。そのため、対応システムの構築や変数の選定が必要となる。これまで経験サンプリングのための体制を構築してきたとともに、ダイヤリー法による研究データのシミュレーションを行い測定変数の検討を行ってきた。その結果、動機的要因に加え、環境変数としてスマートフォンの利用時間や食品のストック、個人間の変動を生じさせる変数として習慣、味覚傾向、自己制御といった変数が重要であることが示唆された。とくに、従来の経験サンプリング法による研究により報告されている動機的要因と行動の疑似無相関の問題は、衝動的動機と行動のプロセスが関与している可能性がこれまでの分析から示唆された。そこで、今後の研究では、経験サンプリングによる測定データを用いて動機的要因と行動の関連についてより詳細なプロセスの分析を行えるようにする。 以上の推進方策に加え、これまでの研究成果を公表するため、2021年度の国内外の学会で発表を行うだけなく、Psychology & Healthなどの国際誌に査読論文として投稿する取組も平行して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延よる緊急事態宣言の発令など日常生活を制限する状況が続いたため、生活行動の測定を目的とした研究としては、データにバイアスを生じさせる懸念が大きかった。研究方法論上と参加者への倫理的配慮から、実査に関しては、感染状況がある程度収束し日常生活が十分に正常化するまで、実施することが困難であると考えられた。そのため、2020年度の実査に関する予算を繰り越した。次年度では、新型コロナウイルス感染症の状況を十分に考慮し、感染者数の減少や政府や自治体の法令が解除されるなど、日常の生活行動が安定的になった時期に実施を行う。
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