本研究では、健康問題や災害問題おける生活環境に存在する潜在的リスクを、”グラウンデッド認知アプローチ”と呼ばれる心理的枠組により可視化することを目的としている。具体的には、時系列の環境の変動と個人の変動を体系的に測定する経験サンプリングなどの研究手法を用いて、環境に存在する潜在的リスクを明らかにする。本年度は、前年度のまでの研究成果を発展させ、災害時の避難行動の経験サンプリング調査の研究を実施した。その結果、年齢、居住形態、被災経験などのデモグラフィック要因に加えて、ハザードマップの認識、地震の予期、不安の多さなどの個人間の変数と、さらには朝、昼、夜といった災害遭遇時の状況の個人内の変動が、避難行動の選択に関連していることが示唆された。したがって、災害遭遇時の避難行動の認知要因に影響を及ぼす個人間および個人内の変数の両方に焦点をあてた包括的なアプローチが重要であることを指摘した。 一連の研究を通じて、健康行動や災害関連行動において行動動機を形成している認知要因が状況に応じて可変的になることが明らかにされた。とくに、経験サンプリングの手法を用いることで、従来の意図と行動の一貫性の問題は、個人間の変動だけなく、個人内の変動が関与していることを、生態的な妥当性の高いデータから実証的に検討することができた。これらの研究成果から、社会的リスク行動を生じさせる生活環境下にあるさまざまな認知的手がかりの影響を統計的なモデリングにより可視化するだけなく、コロナ禍の社会的環境の影響下から人々が適応するための耐性をどのように高めていくのかのレジリエンスについて、タイムマッピングを応用したモデルを提唱をすることができた。本研究成果の一部は、前年度までの発表に加え、2023年のヨーロッパ健康心理学会、日本地球惑星科学連合学会、日本心理学会で発表予定だけなく、投稿論文としての発表を計画している。
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