研究課題/領域番号 |
20K03308
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
永岑 光恵 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (80392455)
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研究分担者 |
曽雌 崇弘 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部, 室長 (00381434)
福田 恵美子 東京工業大学, 工学院, 准教授 (50546059)
竹内 あい 立命館大学, 経済学部, 准教授 (10453979)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 意思決定 / 時間的切迫 / 自律神経反応 / 独裁者ゲーム / 利他的配分 / 推論能力 |
研究実績の概要 |
本研究は、先の我々の挑戦的研究(萌芽)(17K18696)の発展的課題として、実験心理学と行動経済学の融合的アプローチにより、加齢による意思決定過程の変容を心理的・環境的要因の相互作用の観点から解明することを目的としている。曖昧さを伴う意思決定過程を調べる「アイオワギャンブリング課題」と利他的な意思決定過程を調べる「独裁者ゲーム課題」を主に用い、対象者を取り巻く環境要因や新たな行動、ならびに生理指標を用い、意思決定過程の包括的評価法の確立を目指す。 【実験心理学グループ】コロナ禍の影響もあり、高年者を対象とした意思決定(アイオワギャンブリング課題)の生理実験を実施せず、また、当初予定した、高次脳機能障害を有する方々の意思決定研究は、やむなく、研究プロジェクトから外すことに決定した。その代替として、健常若年者群と高齢者群に関する、意思決定実験の既存の生理データを用い、ストレス・情動の定常状態を反映する皮膚コンダクタンスレベルの比較検討を進めている。 【実験経済学グループ】個人の推論能力が他者への利他的な資源配分に及ぼす影響を、独裁者ゲームの実験を通して分析した。独裁者ゲームの実験方法としては、2人組のうちのどちらが独裁者であるかという情報を所与とし意思決定をさせる逐次選択法が一般的である。これに対して、被験者全員に「もし自分が独裁者だったらどう配分するか」と尋ね、回答後に独裁者を決定するのが戦略表明法である。本研究ではレベルK理論を適用することで、意思決定者の推論能力が高ければ、戦略表明法における他者への配分額は逐次選択法でのそれより低くなるという仮説を立てた。しかしながら実験の結果、他者への配分額と個人の推論能力との間には顕著な相関はなく、戦略表明法のほうが逐次選択法よりも他者への配分が大きい傾向にあることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験心理学グループは、コロナ禍の影響もあり、当初予定していた高年者を対象とした意思決定(アイオワギャンブリング課題)の生理実験が実施できなかったため、令和2年度に計画していた「高齢者の自律的反応(皮膚電気反応)モデル作成」が進められなかったが、健常若年者群と高齢者群に関する、意思決定実験の既存の生理データを用い、ストレス・情動の定常状態を反映する皮膚コンダクタンスレベルの比較検討を進めた。また、実験経済学グループは、一つの指標となる実験を設計し、初年度中に実施することができた。仮説を支持する結果は得られなかったものの、逐次選択法と戦略表明法では配分に関する意思決定には統計的に有意な違いが存在し、この理由として推論能力とは異なる要因を考慮するべきという、今後の研究に資する示唆が得られた。このため、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
【実験心理学グループ】 現在の所、若年者群の皮膚コンダクタンスレベルのデータ解析が終了しており、時間的圧迫があり、状況に関わる情報の欠如が高い条件では、そうではない平常条件に比べ、特異なパターンを示すことが分かっている。今後は、高年者データの解析を進め、比較・検討し、年度内に論文化を行う予定である。 【実験経済学グループ】 逐次選択法より戦略表明法のほうで利他的配分が大きくなるという結果は、本質的には同じ意思決定状況にもかかわらず、意思決定時点より後に違う立場になる可能性が残っている場合、人がより利他的配分をしうることを示唆している。今後は、この理由を説明するべく、他のゲームでの実験方法と結果の違いを論じた先行研究を精査し、推論能力に変わる要因を探るとともにその影響の及ぶ意思決定状況の範囲を実験により検証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
【実験心理学グループ】コロナ禍の影響もあり、当初予定していた高年者を対象とした意思決定(アイオワギャンブリング課題)の生理実験が実施できなかったため、被験者謝金を含む実験関連経費が使用できなかった。次年度も同様の状況が続く可能性が高く、高年者を対象と実験実施は見送る可能性が高いため、残額はオンライン上で実施できる実験や、若年者を対象とした実験実施費用および英文雑誌への投稿にかかわる経費に充てたい。 【実験経済学グループ】 新型コロナウイルス感染症の影響により、通常の実験室における経済実験の実施は困難となった。このためオンライン実験を実施したが、当初予定していた対面での実験よりも低予算であるため、実験謝金に残額が生じた。また、学術会議における研究発表や、研究打ち合わせのための旅費や交通費も使用する状況になく残額が生じた。今後、もし対面実験のほうが適する実験があれば次年度以降実施することで予算を使用する。あるいは、余剰分でより信頼性の高い結果が得られるようオンラインでの実験を重ねる。
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