研究課題/領域番号 |
20K03312
|
研究機関 | 東北福祉大学 |
研究代表者 |
吉田 綾乃 東北福祉大学, 総合福祉学部, 教授 (10367576)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 共感 / ワーキングメモリ / 分断社会 / 実行注意 |
研究実績の概要 |
今日、我われは「分断」という社会問題に直面している。分断社会を乗り超えるためには、他者に対する「共感」が不可欠である。本研究の目的は、人々の注意制御能力の個人差の観点から、共感のメカニズムを解明し、分断社会を乗り越えるための方策を検討することである。 2021年度は「思いやり減衰(compassion fade)」に関する研究を実施した。「思いやり減衰」とは、援助対象者がひとりよりも複数名である場合に、共感による感情的コストが高まり、寄付額の減少など援助が抑制される現象である。研究の結果、自らの否定的感情から注意を切り替えることを効率的にできる者は、困難な状況下にある他者の情報に接し、動揺や悲しみを感じるほど、思いやり減衰(少ない寄付)を行うことが示された。思いやり減衰が、多くの犠牲者に接することによって引き起こされる否定的感情の制御(ダウンレギュレーション)の結果であり、これらの感情制御に実行注意が関与している可能性が示唆された。 また、Covid-19の影響の下、対面による研究が困難となったために、取り組んでいた分断社会の生起要因に関する文献研究の成果をまとめた。具体的には、政治的イデオロギーによる分断に着目し、リベラルあるいは保守に傾倒する傾向に、パーソナリティ、認知的傾向、生理的傾向、脳機能や脳構造の特徴が関与していること、政治的イデオロギーによる極性化を引き起こす要因として、党派性バイアス、エコーチェンバー、政治的マイクロターゲティング、バックファイア効果、非人間化が関わっていることを報告した。さらに、政治的イデオロギーによる分断を克服する方法を検討する際に、アイデンティティと実行機能の個人差を踏まえた研究アプローチが必要であることを指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画から、およそ1年程度、計画の遂行が遅れている。主な理由としてCovid-19の影響により、対面での実験や集団実験等の実施が困難になったことが挙げられる。2021年度は、研究実施方法を変更し、2020年に予定していた「ワーキングメモリの個人差が共感による非人間化と思いやり減衰に及ぼす影響」に関する研究に取り組んだ。その成果の一部を日本社会心理学会とヨーロッパ心理学会で発表する予定である。また、Covid-19による研究への影響が不明瞭であったことから、当初の研究計画の一部を文献研究に切り替えた。社会の分断を引き起こす要因として「政治的イデオロギー」に着目し、政治的イデオロギーの個人差が生じるメカニズムと、イデオロギーによる極性化が生じるメカニズムについて先行研究のレビューを行った。さらに、極性化を克服する方法について実行機能(ワーキングメモリを含む)の観点から考察を行い、その内容について論文にまとめた。
|
今後の研究の推進方策 |
Covid-19の影響により対面での研究実施が困難であった期間中に、関連する研究知見の整理とオンラインによる予備調査等を実施した。当初の研究計画よりも1年程度遅れているが、今後は、対面での研究実施が可能となることを前提に、当初の研究計画をより洗練させた内容で仮説の検討を行う予定である。具体的には、2021年に計画していた「ワーキングメモリが共感対象への原因帰属と内集団ひいきに及ぼす影響の検討」ならびに、2022年に計画していた「ワーキングメモリと共感マインドセットが向社会的行動に及ぼす影響」に関する研究について、感染リスクへの対応を十分に行った上で、対面で実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19の影響により、研究発表を予定していた国際学会がオンライン開催に変更されたため、旅費等の支出が生じなかった。また、対面や集団での実験実施が困難であったことから研究手法を変更した。そのため、謝金などの関連費用がせず、これらを計上していない。なお、2021年度に計画していた「ワーキングメモリが共感対象への原因帰属と内集団ひいきに及ぼす影響の検討」ならびに2022年に計画していた「ワーキングメモリと共感マインドセットが向社会的行動に及ぼす影響の検討」は当初の計画通りに実施する予定である。また、これらの研究成果について、国内外の学会で発表するとともに、論文としてまとめる予定である。
|