二重システムモデルは、共感を自動的で高速かつ特定の下位ルートによる感情的共感(Empathy 1)と、複雑でゆっくりとした反復的な上位ルートによる認知的共感(Empathy 2)から構成されると予測する。また、情報への注意が認知的共感に影響する可能性を指摘している。2023年は、当該モデルに基づき、注意制御の個人差と認知的共感、感情的共感が、外集団脅威情報接触後の集団間感情(不安・怒り・恐怖)と外集団への態度・行動意図に及ぼす影響を検討した。日本人調査対象者に対して、外国人の在留者が増加していることを示す刺激文を用いて外集団脅威情報を操作し、低脅威条件と高脅威条件を設定した。その結果、注意制御力が低く、感情的共感傾向が高い者において、脅威情報接触後の否定的な集団間感情が生起することが示された。対して、注意制御力が高く、認知的共感傾向が高い者は、脅威情報接触後の否定的な集団間感情が生起しにくいことが示された。このような結果は、自動的プロセスに支えられた感情的共感が外集団成員への排斥に繋がる可能性を示唆しており、「共感」がもたらす影響の多面性を示唆している。また、外集団への偏見や差別を抑制するには、注意制御力に支えられた認知的共感が肝要であることを示唆している。感情的共感と認知的共感は向社会的行動に対する動機付けと関連しているが、分断社会を乗り越えるためには、両共感の根底にある注意制御プロセスを含めた検討が必要である。
|