研究課題/領域番号 |
20K03314
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
今井 芳昭 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20192502)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 影響力 / 認知パターン / 影響力感 / コントロール感 / リーダー |
研究実績の概要 |
2020年度は影響力(social power)を行使したことによる認知パターン変化について検討し、2つの質問紙実験を実施した。 <研究Ⅰ> 研究Ⅰの目的は、報酬・罰影響力の行使による認知パターンへの影響を明らかにすることであった。影響力操作については、Keltner et al. (2003)が開発した「今までに他者に影響を及ぼした/影響を受けたエピソード」を書かせる条件の他に、新たに「リーダーとして集団をまとめた」エピソードを書かせる条件を設定し、さらに、コントロール条件(テレビドラマ概要の記述)を設けた。従属変数は、感情状態、影響力感、コントロール感をはじめとする8変数であった。Web調査会社Freeasy社の1,800人を上記4条件に割り当て、エピソードを70文字以上記述した388人(平均年齢=42.71(SD=11.74))を分析対象とした。 従属変数の尺度構成後、多変量分散分析を行ったところ、実験条件の主効果が認められた。多重範囲検定の結果、影響力感についてリーダー体験条件>被影響条件、コントロール条件の有意差が認められ、コントロール感については、リーダー経験条件>コントロール条件という結果であった。他の従属変数を含め影響体験条件と被影響体験条件との間に有意差は認められず、欧米圏で指摘されているような認知パターンは認められなかった。 <研究Ⅱ> リーダー体験に関する研究Ⅰの再現性を確認するため、Macromill社でデータ収集を行った。地位(リーダー、フォロワー)×地位の安定性(高、低)の要因実験を行い、各条件に回答者を100人ずつ割り当て、120文字以上記述した134人(平均年齢=46.42(SD=9.27))を対象に分析を行った。しかし、いずれの主効果、交互作用効果も見出されず、リーダーとしてグループ運営を考えることによる認定パターンへの影響は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、報酬・罰影響力(reward/coercive power)を行使することによる認知パターンへの影響を日本において確認すること、報酬・罰影響力を行使することが非因習性(unconventionality)の活性化可能性を明らかにすること、そして、影響力行使による認知パターンを活かした、影響力保持者に対する働きかけ方を明らかにすることであった。2020年度は、前二者について検討し、2つのオンライン質問紙実験を実施した。オンライン実験にしたのは、回答者を大学生だけでなく、20~60代の世代を対象にできるからである。 その結果、上記のように、Keltner, Gruenfeld, & Anderson (2003)の影響力接近/抑制理論をはじめとする、複数の理論で提唱されているような影響力保持者に特有な認知パターンを見出すことはできなかった。研究Ⅰにおいては、リーダーとしてグループを運営した体験の想起がコントロール群や被影響体験群に比べ、影響力感やコントロール感の高いことが見出されたが、研究Ⅱでは、リーダー活動予測群がフォロワー活動予測群よりもそうした認知が高いという傾向は認められなかった。 本研究においては、従来の欧米圏の諸研究とは異なる結果が認められており、こうした結果をさらに精査するために追試を重ねていくことが必要であると考えられる。当初の計画では、この現象を日本において再確認し、それに応じて影響力保持者に対する効率的な働きかけ方を検討する予定であったが、今年度の結果に基づき、研究の方針を修正していく必要性が生じたと言える。影響力体験に関する別の操作方法についても検討し、日本におけるこの現象の有無、その理由などについて検討していくこととする。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の主要な研究目的は、Keltner, Gruenfeld, & Anderson (2003)の影響力接近/抑制理論で代表されているような、報酬・罰影響力の保持による影響力保持者の認知パターンへの影響について日本において検討することであった。しかしながら、上記のように研究Ⅰ、また、それに関連してリーダーとしてのグループ運営について考えることを操作した研究Ⅱにおいて、上記理論で予測されるような認知パターンは認められなかった。 報酬・罰影響力の行使体験とリーダーとしてのグループ運営について考えることとを比較すると、両者とも他者に影響を与えるという点では共通しているが、後者の方が課題の目標達成やメンバーへの配慮なども含まれ、必ずしも影響力の行使のみで構成されているとは言えない。そこで、研究Ⅲにおいては、研究Ⅰを基本に据え、研究Ⅰとは異なるWeb調査会社(Macromill社)でデータを収集し、改めて再現性を確認することにする。独立変数は、影響力体験条件、被影響体験条件、リーダー経験条件、コントロール条件であり、従属変数は、感情(ポジティブ感情/ネガティブ感情の活性度)、コントロール感(ものごとへのコントロール感の程度)、BIS/BAS(行動的抑制/活性)、解釈レベル(ものごとの全体的/部分的認知)、被影響性(質問紙上における指示への応諾度)などを考えている。 その研究結果に基づき、次の研究Ⅳの方向性を考えていくことにする。異なるWeb調査会社においても研究Ⅰと同様、報酬・罰影響力の保持体験想起による特有な認知パターンが認められなければ、先行研究とのデータ収集方法の異同を検討の上、日本における影響力の行使による認知パターンへの低影響について考察していくことにする。その際、影響力体験を想起させる新しい方法の開発や他の認知パターンについても検討していくことにする。
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