研究課題/領域番号 |
20K03317
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
福川 康之 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90393165)
|
研究分担者 |
高橋 雄介 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (20615471)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 行動免疫 / 進化 / 適応 / COVID-19 / コロナウイルス / 双生児 / 行動遺伝学 |
研究実績の概要 |
「行動免疫(behavioral immune system)」とは,人が進化の過程で備えるようになった情報処理システムであり,人の生存や繁殖を脅かす感染源(例えば保菌者)に出会った際に生じる嫌悪感情や回避行動の発現を促す.本研究の目的は,この行動免疫に関して,1)国際比較(文化的基盤の検討),および,2)遺伝的特性の検証(生物的基盤の検討),を行うことであった. 本年度は,まず,研究代表者の所属研究機関において,本研究の遂行に関わる倫理審査を申請し,承認を受けた.次に,目的1(行動免疫の文化的基盤の検討)に関して,日本人を対象とした大規模オンライン調査を行った.ここで得られたデータを,2018年に同じく日本人を対象として行われた行動免疫に関するオープンソースデータと比較することで,コロナ禍と呼ばれる事態が日本人の行動免疫の発現に及ぼす影響を検討した.その結果,コロナ後はコロナ以前と比べて行動免疫が活性化されること,また,加齢に従って行動免疫傾向が活性化することを示唆する結果が得られた.加えて,コロナの影響とは関係なく,男性より女性の行動免疫傾向が高いことも明らかとなった. 目的2(行動免疫の生物的基盤の検討)については,これまでに日本国内で取得することのできた人間の行動免疫システムの個人差を測定するいくつかの指標に関する双生児データ約500組を用いた行動遺伝解析を進めた.その結果,本邦における行動免疫システムの個人差には共有環境の影響が多分に認められ,これはフィンランドにおける唯一の先行研究とは大きく異なることが明らかとなった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
目的1(行動免疫の文化的基盤の検討)に関しては,本研究課題が採択される直前にコロナウイルスの流行が始まり,世界中がその影響下に置かれたため,当初の研究計画の変更を余儀なくされた.ただし本研究課題である行動免疫の発現様式の検討するうえで,現在世界が置かれている状況は格好のフィールドでもある.そこで本年度は研究方針を変更して,まず日本人を対象としてオンライン調査を行い,これをコロナ前に行われた行動免疫に関するオープンソースデータと比較することとした.その結果,コロナ後では行動免疫が活性化されること,生理学的な免疫能力が低下する高齢者ほど行動免疫傾向が活性化することを示唆する結果が得られた.加えて,コロナ禍の影響とは関係なく,男性より女性の行動免疫傾向が高いことも明らかとなった.本年度中にこの結果を学会発表し,その後は学術論文とすることを企図している.他方,コロナ禍における人間行動に関するシンポジウムに討論者として参加し,リスク状況(コロナストレス)下において理論的・経験 的に予測される人間行動について,行動免疫の観点から解説した. 目的2(行動免疫の生物的基盤の検討)に関しては,日本人双生児を対象としたデータの分析を行った結果,本邦において特異的に共有環境の影響が存在することを示唆する知見が得られたことから,この結果を英文誌にまとめ,現在投稿準備中である.
|
今後の研究の推進方策 |
目的1(行動免疫の文化的基盤の検討)に関しては,本年度の研究結果に基づき,コロナ状況下における行動免疫の発現様式に関する調査を諸外国で行い,日本との比較を行うことを計画している.例えば研究代表者は,コロナ以前にアジア諸国で行動免疫に関する調査研究を行っていたことから,このデータを今後取得するデータと比較することを計画している.行動免疫の活性は感染症への罹患リスクと関連することが指摘されていることから,コロナ前後,あるいは対象国の感染症の罹患リスクの違いに配慮した検討を行うことで,行動免疫の文化的基盤が明らかとなることが期待される. 目的2(行動免疫の生物的基盤の検討)に関しては,コロナ禍前後における行動免疫システムの遺伝・環境構造に変容があったかどうか確認を行うために本邦における双生児データの取得を行うと同時に,より直接的な比較を行うためにフィンランドの双生児標本においてデータ取得を行い,それらの分析結果の論文出版を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
目的2(行動免疫の生物的基盤の検討)について,当該年度内に予定していた予備調査研究の実施が新型コロナウイルス感染症拡大を理由に十分行えなかった.このため研究費を次年度に繰り延べした.本年度は十分な対策を行ったうえで,新たな方針のもとで研究費を使用し,前年度に計画していた部分に相当する研究を実施する予定である.
|