研究課題/領域番号 |
20K03321
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
元吉 忠寛 関西大学, 社会安全学部, 教授 (70362217)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 避難行動 / 災害自己効力感 / 防災教育 / レジリエンス / シナリオ実験 |
研究実績の概要 |
災害の発生が予測される状況で避難指示などの情報が出されても、住民が適切な避難行動を行っていないことは繰り返し指摘されている。本研究では、災害のリスクではなく、対策行動のポジティブな側面に着目することによって避難行動を促進する方策を見つけ出すことを目的としている。 今年度は、2022年8月1日から6日にかけて前線の活発な活動により大雨となり気象庁が大雨特別警報を発表した山形県と新潟県、さらに記録的な大雨となった石川県の住民各1000名を対象としてアンケート調査を行った。アンケート調査では、この大雨により災害の発生が予測された状況下での実際の情報取得状況や、状況の認識、避難行動について回答を求めた。その結果、このような状況の時にいずれの県においても90%以上の住民が災害や避難に関する情報を取得しようとしていたことが明らかになった。防災気象情報には大雨特別警報、土砂災害警戒情報など気象庁が出す情報と、緊急安全確保や避難指示など市町村から発表されるものとがある。しかし、住民の中にはそれらを混同したり、誤認したりしている可能性があることも明らかになった。具体的には大雨特別警報が出ていなかった石川県の住民のうち約70%の者が、大雨特別警報が出ていたと回答していた。また自分の住む地域に避難情報が出ていたと回答した者のうち自宅以外の場所に避難した者は、いずれの県においても10%未満と少数だった。自宅以外の場所に避難しなくても安全な場合もあるが、適切な避難行動を取っていない住民もいると推察されるため、避難行動を促進する要因に関するさらなる検証が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は一年間米国にて在外研究を行っていたため、日本国内の被災地や快適な避難施設が整っている地域における住民へのインタビュー調査の実施は困難だった。このため、インタビュー調査にかえて、大雨特別警報が発表されたときの住民の認識や行動の実態把握、災害自己効力感や日ごろの備えに関する調査を実施した。 また今年度はシナリオ実験および児童生徒を対象とした防災教育を実施することはできなかった。これまで行ってきたシナリオ実験や防災教育の結果は、本研究で想定している仮説を必ずしも実証するものではなかったため、対策行動のポジティブな側面が避難行動を促進するという研究仮説を再考する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の感染症対策を踏まえた災害対応として、分散避難が推進されるようになったという社会的な変化は本研究の進捗状況に対して大きな影響を与えている。ところが、西日本豪雨の被災地となった広島県、岡山県、愛媛県を対象に分散避難の実態を調査したところ、自治体レベルではそれほど分散避難に対する積極的な対応が進んでいないことが明らかになった。しかし、COVID-19の影響もあったためか、いくつかの地域で災害時にホテル等を活用する協定等を地域住民と締結したという事例も出てきている。これらの地域やホテルにインタビューを行うことによって、災害時避難のホテル等の活用についてどのようなことが可能で何が障害になっているのか検討をしていく予定である。 最終年度には、これまでできなかった快適な避難所に関する事例の収集を積極的に行うとともに、災害のリスクではなく、どのような条件において対策行動のどのようなポジティブな側面に着目すると、避難行動や防災対策行動が促進するのか総合的に検証し、研究成果を学会や研究論文として発表していくとともに一般の人々に対する情報発信もしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
少額であり誤差の範囲内だと考えている。当初の計画通り、使用することを考えている。
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