共感性を測定する手法の一つとして、人物の表情を写した画像や対人コミュニケーション場面を撮影した動画を観察する際の視線情報を用いるアプローチが近年注目を集めている。その際の提示刺激素材として“マンガ”が有効であるとの仮説に立脚し、本年度は、マンガを読む際の視線の動きの特徴から読み手の共感性を推定する機械学習モデルを構築することを目的とした実験を行った。実験では114名の大学生を対象に、共感性、自閉症傾向ならびにBig5性格傾向を測る質問紙調査を実施し、視線計測実験への参加の同意が得られた108名から60名(このサンプル数は関連先行研究の結果に基づく例数設計に依拠している)を抽出して視線計測実験を実施した。実験では参加者にあらかじめ選定されたマンガ素材を読んでもらい、その際の視線の動きをアイトラッカーにより記録した。注視時間やサッケード距離等の種々の視線情報から合計約200種類の特徴量を算出し、それらを入力として参加者の共感性得点や自閉症傾向得点のレベル(全体得点を高・中・低の3段階に分割した場合の各参加者の所属レベルを予測する3値分類)を予測する機械学習モデルを構築した。予測精度に関してクロスバリデーション法で評価したところ、共感性得点と自閉症傾向得点の分類精度は、共感性得点のいくつかの下位尺度得点においてチャンスレベル(33%)を上回る数値を得たものの、いずれも40%を超えてはおらず、分類精度として十分な予測精度とはいえなかった。実験を通して唯一、高い分類精度を示した指標は、Big5性格傾向の外向性得点であった(約45%の分類精度)。この結果を踏まえ、年度の後半では、実験に用いるマンガ素材の見直しを図り、読者の共感を惹起するようなストーリーを含むマンガ素材を独自に作成して追加実験を行った。この実験に関しては、実験参加者の確保が思うように進まず、まだ実験は継続中である。
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