本年度の研究実績としては,これまでの研究知見を総括し,ネットいじめの被害経験者を対象とした新たな視点に基づく介入方法の効果検証を行い,一定の効果が期待できることを明らかにした。 詳細には,ネットいじめの被害経験者を対象にRCTデザインでの介入研究を行った。介入においては,本年度までの結果に基づき,(1)ネットいじめの被害経験が他者に相談されにくい話題であることを踏まえ,まずは自分だけでも実施することのできる方法とする,(2)他者への開示が抑制されてきたことを踏まえ,自身の経験や感情などについても開示できるような方法とする,(3)しかし感情経験の開示に際しては,被害経験後も長期にわたって心理的にネガティブな影響が残存し,自分自身に対しても否定的な評価が継続していることを踏まえ,セルフコンパッションの知見・手法を組み込みながら自己否定的な開示にばかりならないようにする,という3点を新たな視点として盛り込んだ。これらの視点をいずれも含め,自身のネットいじめ被害経験について自己への思いやりを持ちながら振り返り,言葉にまとめる介入を3週間にわたって実施した。そのうえで,介入前(pre),介入直後(post),介入から3週間後(followup)の3時点において従属変数としての自尊感情の測定を行った。 分析の結果,条件と時期の交互作用が有意であった。単純主効果検定の結果,上記の介入を行った条件においては,preからpostにかけて自尊感情が高まることが示された。加えて,followup時点にも効果が持続する可能性も示された。
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