研究課題/領域番号 |
20K03329
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
岩田 美保 千葉大学, 教育学部, 教授 (00334160)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 感情言及 / 感情語 / 関係調整 / コミュニケーション / 仲間遊び / 話し合い / 言及機能 / 社会的文脈 |
研究実績の概要 |
本研究の主目的は、幼児・児童の他者理解について、社会的文脈での子どもの感情言及がもつ関係調整機能のプロセスを通じて発達的検討を行うことである。今年度は、新型コロナウイルス感染状況をふまえながら、可能な範囲で幼稚園での観察を行うとともに、これまでに得られている観察データに基づき、特に幼児期のデータ分析(①)を中心に検討を進めた。 ①幼稚園での仲間遊び場面での感情言及の関係調整機能:これまでの検討から、園の仲間遊びでのポジティブな感情言及(「おもしろい」「楽しい」への言及)が仲間間の関係調整において有効な役割を果たしていることが示唆されたが(岩田,2019)、他のポジティブ感情語では異なる特徴がみられる可能性も推察された。こうした点をふまえ、本年度は、幼児期の感情言及の対人機能についての発表・討議を日本心理学会大会(2021)にて行い、考察を深めるとともに、これまでの基礎分析をもとに、3歳児クラス期から4歳児クラス期にかけての「かわいい」への言及に着目し、その関係調整的な役割のありようや、「おもしろい」「楽しい」への言及に関わる様相との異同について検討を進めた(印刷中)。また、幼児期(3歳児クラス期から4歳児クラス期)の仲間遊びでのネガティブな感情言及の遊戯的使用が仲間同士の関係調整に有効な役割を果たしている可能性について述べた検討結果が公刊された(保育学研究,2021)。現在、それらの言及における性差や、5歳児クラス期にかけての変化もふまえて検討を進めている。 ②小学校児童を対象とした検討:2年学級の話し合い場面のデータの基礎分析を進めた。話し合いのテーマおよび、そこでの教師のねらいや助言も含めて整理を行った。現在、現在まで整理されたところに基づき、感情コミュニケーションの観点から基礎分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度も昨年度に引き続き、コロナ状況下にあり、園での観察は可能な範囲で一部継続して行ったものの、学校での新たな観察は難しかったことなどから、これまでに得られている園および学校での子ども同士のやりとりの観察データに基づき、感情言及と関係調整に関わる分析を進めた。 現段階までの研究成果として、特に園での仲間間の感情言及を含むやりとりについては、幼児期の感情言及の対人機能についての発表・討議をもふまえ(日本心理学会大会,2021)、3歳児クラス期から4歳児クラス期にかけての変化に着目し、ネガティブな感情言及の遊戯的な使用とその関係調整的な役割に関わる検討や(保育学研究,2021)、ポジティブな感情言及としての「かわいい」への言及と関係調整との関わりについて検討を進めることができた(印刷中)。一方、これらの感情言及には性差がみられることが推察され、今後は、性差の観点をふまえた分析を進め成果を発表していくこと、また、上述した検討結果をふまえ本研究課題に関わる総合的な考察を行っていくことが必要となる。 児童期に関わる検討については、今年度は、低学年の観察データをふまえ、話し合いのテーマや教師のねらい、助言がどのようになされているかという点に着目し整理を進めた。これらをもとに、感情言及と関係調整の観点に基づき、高学年のデータとも比較をしながら、基礎分析を進めているところである。逐次得られた結果について、今後研究報告を行っていく予定である。 総じて、本研究課題の最終年度に向けて、基礎的な分析については、特に幼児期に関わる分析を中心に進んできている。こうしたことから、当初の研究目的に沿った研究の進行は概ね順調になされているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究課題の最終年度として、幼児・児童期の感情言及を通じた関係調整のありようについて、これまでのデータを総括し、総合的な考察を行っていくことが必要である。幼児期のデータについては、ポジティブな感情言及に関して、これまでの検討結果(岩田,2019)ともその発達的様相を比較しながら、幼児期の仲間遊びにおける感情言及機能について分析・考察を行う。ネガティブな感情言及については、遊戯的使用という観点から、基礎分析(岩田,2021)を進めてきたが、さらに詳細に分析を行う。 児童期のデータについては、現在まで整理されたところに基づき、感情コミュニケーションの観点から基礎分析をさらに進めていく。これらをふまえ、最終年度としての、社会的文脈での感情言及と関係調整に関する検討の総括を行い、幼児・学童期の社会的文脈における他者理解のプロセスについて仮説を提出したいと考えている。
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