研究課題/領域番号 |
20K03344
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
外山 紀子 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (80328038)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 共存モデル / 素朴生物学 / 生気論 / 病気理解 / 概念発達 / 素朴信念 |
研究実績の概要 |
(1) 治療効果に関する理解の検討 病気の治療効果に関する科学的知識と民俗信念の共存形態を明らかにするために,大人(医療分野の素人)600名を対象としたweb調査を実施した。原因不明の病気にかかった4名の主人公がそれぞれ異なる専門家にアドバイスを求めたところ,医学的治療(投薬),民間療法として物理的治療(こんにゃくを患部に貼る),宗教的治療(お守りを身につける),家族による宗教的治療(家族が毎日お参りする)を受けるよう指示されたというストーリーを提示し,各治療についてどの程度効果があるか(効果判断),その治療を受けたことで治ったとしたら,それはなぜなのか(効果説明)回答を求めた。大人の約半数は医学的治療だけでなく民間療法も効果的であると判断し,民間療法の効果を認める人ほど,科学的知識に基づく理由だけでなく,エネルギー(生気論的因果)や心理社会的要因といった民俗信念に基づく理由をあげることが多かった。次に,大人に実施した課題から家族による宗教的治療を除いた3つの治療を課題として,小学2年生・5年生を対象としたオンラインによる個別面接実験を行った。小学生は大人同様,医学的治療と民間療法をその効果の点において区別していたが,民俗信念に基づく理由説明はほとんど認められなかった。 (2) 病気予防の知識伝達 保育園・幼稚園の給食当番について,手洗いやテーブル拭き,食器配膳といった実践のなかに病気の予防に関する知識がどのように織り込まれ,子どもに伝達されているかを分析した。幼稚園・保育園における当番および衛生教育の実施状況を質問紙調査によって調べた研究は外山(2022)にて,給食当番場面の観察調査はToyama(2022)にて学術論文として発表した。なお,日本と中国の幼稚園・保育園における給食の実施状況についても,質問紙調査を実施し,韓・長谷川・外山(2022)にて学術論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,保育園・幼稚園などでの観察調査を実施することができなかった。昨年度は大人に対する調査はweb調査にて実施し,子どもに対する調査はオンライン機器に馴れていると考えられる小学生を対象としてZoomを使った個別面接実験を行った。しかし,幼児についてはオンラインでの調査は困難であり,就学前の子どもの理解については検討できない状況にある。 本研究では中国・オーストラリアの子どもの理解と日本の子どもの理解を比較検討する計画をたてていたが,渡航制限がかかるなかで中国・オーストラリアでの観察・実験を実施できない状況にある。今年度は感染収束状況をみながら,可能であれば,海外での調査を実施したいと考えている。 インタビュー調査・観察調査については,実施困難な状況が続いているものの,昨年度は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大前に取得してあった給食当番場面の観察データを共存モデルの観点から分析するなど,研究方法を工夫することで検討を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
子どもを対象とする実験・観察については,新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収束し,保育園・幼稚園への立ち入りが許可されたところで速やかに着手する予定である。 新型コロナウイルス感染症の感染収束状況をみながら,日本各地において実施されている民間療法の起源,実践状況を調べるために,各地に出向き,民間療法実践者に対するインタビュー調査を行う予定である。インタビュー対象者が大人であれば,感染防止対策を十分に講じた上で,民間療法の施設見学や実践場面の観察,インタビューなどを実施できると考えている。 今年度は最終年度になるため,新型コロナウイルス感染症の感染拡大前に取得した映像データを,共存モデルの観点から分析するなど,研究方法を工夫することで,当初の研究目的を達成できるよう,検討を進めていきたいと考えている。また2022年度最後に開催される国際学会にて研究成果発表を行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,当初計画していた中国・オーストラリアでの調査が実施できなかったこと,また国際学会に出席できなかったことにより,旅費等の支出ができなかった。
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