研究課題/領域番号 |
20K03349
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
宇都宮 博 立命館大学, 総合心理学部, 教授 (10320152)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 成人初期 / パートナーシップ / コミットメント / 心理的適応 / 親密性 / 家族役割 |
研究実績の概要 |
本研究の具体的な検討課題は,①成人初期におけるパートナーシップ形成の多様性について,近年の心理学的アプローチによる研究動向を整理した上で,いくつかの調査研究を通して,②「パートナーとの関係性の形態ならびにコミットメントの経年的変化と心理的適応との関連」(研究1)ならびに③「非同棲者・同棲者の交際相手とのコミットメントの問い直しや変容」(研究2)について考察することにある。①については,法律婚と同棲のカップルにおける心理的諸問題に関わる研究動向について,とくに欧米での理論的,実証的な取り組みを整理した。具体的には「結婚のプロセスとしての同棲,新たなライフスタイルとしての同棲」,「同棲および結婚への移行プロセスとコミットメント」,「夫婦と同棲カップルにおける子どもへの発達的影響」などについて論じた。この領域での我が国の心理学的知見は非常に限られており,基礎研究の蓄積の必要性と本研究の役割が確認された。 今年度では②の計量的調査(第Ⅰ期)の着手に向けて,有配偶者ならびに同棲者を対象とするオンラインによる予備調査がそれぞれ実施された。調査では,どちらのタイプも①自身とパートナーがともに20代か30代のいずれかに該当し,②ともに学生ではなく,③(前のパートナーとの間も含め)子どもがいない(妊娠を含む)という条件を満たす者に限られた。設問は尺度項目の検討を想定したSCT(文章完成法)が採用された。今回の予備調査については,本調査の実施にむけた尺度項目の収集が主なねらいであり,反応内容に対する質的分析が行われた。この手続きとともに昨年度に文献資料で収集された項目群をもとに,次年度より本調査を実施する計画である。あわせて付加的な分析として,両群のパートナーの意味づけや関係の継続理由,家族役割の獲得に関する類似点と相違点などが比較検討されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に継続して,文献による理論的検討とともに,本調査の尺度構成ならびに心理的適応との関連の検討を視野に入れた予備調査を有配偶者ならびに同棲者を対象に実施することができた。また,社会的還元の取り組みとして,日本家族心理学会の研修企画として,家族のダイバーシティに関する講師を務め,本研究の焦点の一つでもある結婚と同棲の違い等,様々なパートナーシップに焦点を当てた研究動向と今後の展望についての情報を提供した。また,日本生殖心理学会等で口頭発表を行うこともできた。しかしながら,縦断研究の調査が次年度からの開始となったため,課題の遂行状況としては,遅れぎみであると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスの調査への影響を考慮しながら,本調査のタイミングを慎重に伺ってきた。その上で,我々の生活や家族役割をめぐる意思決定(結婚,出産等)の実態などをふまえ,最終的な判断としては,本年度は予備調査の実施にとどめ,本格的な調査の始動を次年度に再設定することとなった。ここにきて,新型コロナウィルスによる人々の意識やライフスタイルへの影響については,以前の混乱の状況を越え,落ち着きを見せつつある。むろん,以前の状況と同じわけではなく,むしろ新しい局面にあるととらえることが妥当であると考えられる。そのため,新型コロナウィルスの文脈を考慮に入れた上で,様々なパートナーシップの選択やその維持,さらには心理的適応にとってどのようなインパクトを有するのかにも留意しながら,本研究を通して心理的支援の充実に有益な基礎資料を提供できればと考えている。本来の研究目的の追究から,データ収集の進度は遅れているものの,見直された計画に沿って,研究の遂行は十分に可能であると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスによる回答への影響等を考慮し,計画されていた本調査が見送られたこと,ならびに出張を伴う学会発表がオンラインになったことなどにより,次年度使用額が生じている。なお,次年度では,理論的検討のための文献資料ならびに統計解析ソフトの購入,量的,質的調査を遂行するため専門機関への委託および謝礼,さらには旅費を伴う国内学会の年次大会への参加等において使用される計画である。
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