研究課題
本年度は、これまでに収集した70歳群、80歳群の老年的超越の縦断変化に影響する要因についてのデータ分析を行った。データは、70歳群(673人)、80歳群(412人)とも、WAVE2からWAVE3ものを用いて、両調査間3~4年間(概ね73歳から76歳、83歳から86歳の間)の老年的超越尺度の合計点の縦断変化に対する、調査間に体験した大病や死別イベントの経験の影響を検討した。分析は、年齢群を異なる母集団とする多母集団共分散構造分析を用いた。その結果、3~4年間隔の2時点の縦断調査においては、70歳群(73⇒76歳)では、その間に経験した配偶者との死別および介護の経験が、追跡調査時の老年的超越の向上と有意に関連していた。80歳群(83⇒86歳)では、きょうだいとの死別の経験と、調査間の老年的超越の向上とが有意に関連していた。モデルの適合度は十分に高い者であった。更に、70歳群のみであるが、70歳から76歳の3時点での老年的超越の発達に対する介護経験の影響を検討したところ、介護経験がある人は男女とも超越の発達が早いことが示された。これらの結果から、①死別や介護と言った「危機」がTornstamの仮説通り、老年的超越を向上させる可能性があること、②前期高齢者と後期高齢者で、老年的超越を向上させる「危機」が異なること、が示された。両群で超越向上の要因が異なるのは、その年代の多くの人にとって重要であり大変な状況を引き起こす対象が異なるためと考えられた。今回の分析結果から、老年的超越の向上は、その後の精神的健康につながり、更に高齢期の後半に生じる更なる危機への適応に繋がっていくという、螺旋的な発達が行われていると考えられた。
3: やや遅れている
2020年度には80歳群の第4波調査(89歳時)を実施する予定であった。しかしながら、2020年3月より日本全国での新型コロナウイルスの流行が1年に渡って続き、2020年度に予定していた会場調査を実施できず、老年的超越に関するデータを収集できなかった。
2021年度は、2020年度に実施できなかった80歳群の第4波調査と90歳群の第4波調査を合わせて実施する予定で、現在調査準備を開始している。現在のところ、新型コロナワクチンの高齢者への接種が2021年秋までに終了する予定であるので、9月以降の会場調査も実施可能と考えている。もし、今後の感染状況などの悪化が続く場合には、老年的超越に関する聞き取りを電話で行うことも視野に入れて準備を進めることとする。
2020年度は、計画していた89±1歳の会場招待型調査が実施できなかったため、予定していた費用を使うことができなかった。この調査を、2021年度の90歳代調査と合わせて、2021年度は実施する。
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