研究課題
令和4年度は、3つの年齢群、70歳群(初回調査時70±1歳)、80歳群(初回調査時80±1歳)、90歳群(初回調査時90±1歳)である地域高齢者3011人の4時点9年間の老年的超越の加齢変化と、その変化に対する関連要因のデータ分析を行った。この成果について論文にまとめ、英文誌Journal of Adult Developmentに投稿し、現在査読中である。線形混合効果モデル分析により、まず、次の3つ仮説を検証した。1) 高齢者超越性は年齢とともに増加する。 2) この増加の大きさは性別と年齢群によって異なる。 3) これらの性別と年齢の効果は、統制変数を調整した後でも、独立した影響を示す。分析の結果、教育年数、同居人の有無、健康度自己評価、IADL、精神的健康という他の変数を調整しても、①老年的超越の平均して時間とともに増加する。②性別は老年的超越のベースラインのレベルに有意に影響する。③年齢群はベースラインのレベルに影響し、加齢変化に対して有意な交互作用がある、ことが示された。③については、70歳群における老年的超越の変化が最も大きく、80歳群では安定し、90歳群ではやや低下するが80歳群の水準までは低下しないことが示された。このことから老年的超越は、前期高齢期に大きく発達し、80歳群以降は高い値で安定すると考えられ、Tornstamの仮設とほぼ一致することがわかった。老年的超越の加齢変化に対する関連変数として、初回調査時の教育年数、同居人の有無、健康度自己評価、IADL、精神的健康の影響を検討したところ、老年的超越のベースラインのレベルには、教育年数が低いこと、同居者がいないこと、IADLが高いこと、精神的健康が高いことが正の影響を与えていた。また、主観的健康が高いこと、同居者がいることが、その後の老年的超越の加齢変化を促すことが示された。
2: おおむね順調に進展している
更に当初計画していた収集データを用いて、本研究課題の最も重要な課題である、「老年的超越は発達するのか、どのような発達曲線を描くのか」および「その変化に関連する要因は何か」についておおよその結論が得られたため。一方で、「老年的超越の発達曲線には個人差があるか」についての検討までは至らなかったため。
まず、残る課題である「老年的超越の発達曲線には個人差があるか」について検討を行う。上記の、線形混合モデルにおけるランダム効果の分析からは、老年的超越の縦断変化には切片、傾きに対する個人差が有意であることが示されているので、潜在クラス分析などを用いて縦断変化の仕方について類型が見いだされるかを検討する。更に、この類型への関連要因を検討する。さらに、令和4年には70歳群の5回目の調査(参加者年齢82±1歳)を実施したため、80歳群の初回調査と比較することにより、老年的超越の世代差についても検討を行う予定である。
老年的超越の加齢変化についてはもう1期、調査を実施することにより、①各年齢の初回調査のレベルの差が世代差によるものなのか加齢変化の結果により生じたものなのか、②90歳群で見られる老年的超越の減少傾向について、ケース数を増やし、安定した結果として得られるのかを検討することが必要であると思われる。したがって、令和5年度に80歳群、90歳群の5回目の追跡調査を実施し、これらの疑問について明らかにする。
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