研究課題/領域番号 |
20K03370
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
藤田 豊 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (60238590)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 感性の発達 / 感覚刺激と感性 / 感性と学習過程 / 感性教育 / 感性保育 |
研究実績の概要 |
令和2年度の研究実績概要:本研究課題の基本計画は,幼児期から児童期にかけての子どもの「感性」の概念定義を行い,実験変数を設定した上で(1)感性の発達的特徴について,(2)感性の発達と学習過程との関係について,(3)感性を土台にした内発的学習を育む保育・教育の方法について,それぞれに実験課題(あるいは保育・授業実践課題)と,効果測定のための評価尺度を開発し検証することである。 計画年度1年目は,感性の構造的・機能的発達の特徴を捉えるため,味覚を除いた感覚刺激に応じた子どもの理解過程に焦点を当て,感覚刺激の違いによる理解の程度に違いが見られるか,また感性全体の発達的傾向について言葉での理解過程と描画を通した描画過程とを比較しながら検討を行った。具体的には,実験的観察法を用いて,(1)視覚刺激に対する感性(対象物が持つ視覚的世界:野菜や果物合計12種類の大きさ,形,質感の分類)(2)嗅覚刺激に対する感性(対象物が持つ嗅覚的世界:上記(1)野菜や果物の香り分類)(3)触覚刺激に対する感性(対象物が持つ触角的世界:上記(1)野菜や果物の触感)を測る課題を用意し,保育園児(年中,年長)の反応傾向(言葉での説明内容,描画を通した表現内容)について分析を行った。 幼児期の子どもの嗅覚・触角・視覚的な刺激材料に対する感性の発達傾向について,言葉での説明内容も描画を通した表現内容でも「点や線」「色」「輪郭や形」としての描画表現も言葉での説明内容も対応関係が認められた。嗅覚刺激に対しては,言葉での説明は可能であったが,描画として表現する傾向は殆ど見られなかった。触角情報に対しては,「点や線」「輪郭や形」についての表現が描画を通して見られ,言葉での説明のみの子どもは全体の1/4程度であった。[(4)聴覚刺激に対する感性については,場面設定が確定せず,次年度の継続検討課題である。]
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の現在の実施状況は,子どもの感性に支えられた学びとそれを促す教育や発達支援に焦点を当て,初年度(1)幼児期から児童期にかけての「感性」の発達特性とは何か,その発達の様相はどのようなものかを明確にする段階から,次年度(2)周りの世界を学び始める過程に「感性」がどのように作用しているのか幼児期の保育における学びと「感性」の交わり,児童期低学年(接続期)における学びと「感性」の交わり,またその発達的差異を明らかにする段階へと移行途中にある。初年度は,主に就学前の幼児期において子どもの中で自発的に働く感性とはどのようなものか,「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」それぞれの働きの程度に差異は見られるのかを比較・検討を行い,今後は児童期においても感覚器官を通して入ってくる刺激情報(「視覚」「聴覚」「嗅覚」「触覚」)に合わせた感性の特徴を明らかにし,幼児期から児童期にかけて予想される構造的な変化について検討を行う予定である。 当初の計画としては,各感覚器官を通して入ってくる刺激情報の種類に応じて,子どもが自らの感性を働かせながら,身の回りの世界について,多様に理解・表現する過程を分析する計画であったが,今回は,視覚・触角・嗅覚に係る刺激情報を総合して合わせ持つ対象(野菜や果物)を実験課題(刺激材料)として統一し,子どもの感覚器官については,実験者側が伝達する情報を実験的に統制(遮断)することにより,子どもの中で生み出される感性の多様さ(拡がり,深まり)を比較する方法を採用した。
|
今後の研究の推進方策 |
計画年度2年目は,子どもの感性と内発的な学習過程とはどのような関係にあるか,認知過程(知覚,イメージ,記憶,理解)を扱う課題と表出過程(想像,見立て,模倣,操作,想像)を扱う課題とを用意し,幼児期と児童期の感性と学習過程の関係に係る発達的変化について検討を行う。具体的には,以下のような保育・学習課題を開発しながら検討する。(1)視覚刺激に対する感性については,虫眼鏡で観察した色々なもの(要素,要素と要素の繋がり,全体構造)を微視的-巨視的に表現させたり,色で多彩に表現させるような保育・学習課題を用意する。(2)聴覚刺激に対する感性については,耳を澄まして聴いた自然の音(雨,風,木々の葉の揺れ,浜辺の波,昆虫や鳥等)をそれ以外の物(豆,紙,ビニール,ガラス・木製コップ,ペットボトル,水)に色々な操作(器に落とす,揺らす,擦る,量を調節したコップを叩く等)を加えることで表現させるような保育・学習課題を用意する。(3)嗅覚刺激に対する感性については,(視聴触覚情報を遮断した上で)匂いを嗅いで,それが何か(草花,野菜,果物等)を絵に描いて表現させる。最後に(4)触覚刺激に対する感性については,(視聴嗅覚情報を遮断した上で)手触りや持った感触だけで,それが何か(自然界にある物,生活用品)を表現させる。あるいは,柔らかい-硬い(あるいは軽い-重い,ゴツゴツ-サラサラ)のような質感を測る基準を作らせるような保育・学習課題を用意する。それと併行して,子どもの感性を土台にした内発的に動機付けられた学びの過程や,体験する世界が言葉や記号によって概念化される世界と結びつくような学習課題,それを支える保育・教育方法との関係性について実験的に検討し,実際の子どもが互いに協働しながら学習活動へ参加していくプロセスや,感性と学習過程との融合のあり様について明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画されていた海外での学会発表に係る旅費(米国への渡航費)について,COVID-19による大会延期に伴い,支出が不要となったため,物品費と人件費に振り分けたが,残額が発生した。その残額分(¥69,366)については,次年度(R3年度)研究費に組み込んで,研究推進の経費として活用する予定である。
|