母子分離不安が強く、園での生活に不安感を抱く3歳児1名を対象として、観察法を用いた短期縦断的研究を行い、保育者や仲間との愛着形成によって居場所感が形成されていくプロセスを4期に分け、感情コンピテンスという視点から検討した。Ⅰ期では、母子分離不安が強く、自由遊び場面でも母親を思い出して泣くことが多かった。また、どのような感情を経験しても張り付いたような笑顔を崩さず、園での生活は対象児にとって不安感と緊張感をもたらすものであった。Ⅱ期では、保育者との愛着形成が進み、仲間相互作用が次第に増えていった。しかし、母親を思い出して泣き出すこともあり、感情に起伏が見られた。仲間との間で交わされる感情のやりとりは多いとはいえず、仲間関係において居場所感が形成されているとはいえなかった。Ⅲ期では、母親を思い出し、寂しさを我慢する姿が見られるが、泣くことはなくなった。保育者との愛着が形成され仲間との相互作用が増えるにつれ、社会的スキルが向上し、遊びにおける夢中度も高まった。遊びの中で安心して感情を表出する姿が増えていき、仲間関係において居場所感が形成されつつあると考えられた。Ⅳ期では、母親のことを笑顔で語る姿が見られ、対象の恒常性が確立されたことがうかがえた。表出される感情の種類が増え、涙を流して笑うといった豊かな感情表出もみられた。さらに、遊びの中で生じた不安感が他児からの援助行動によって払拭され安心するなどの姿から、仲間関係において居場所感が形成されたことが確認された。幼児が園で居場所感を認識するということは、保育者や他児と安心して感情のやりとりができることを意味する。母子分離不安の強い幼児が園で居場所感を形成するためには、保育者との愛着関係に基づく、仲間との多様で豊かな感情のやりとりと、それを可能にする遊び環境が必要であるといえよう。
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