研究課題/領域番号 |
20K03374
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研究機関 | 茨城キリスト教大学 |
研究代表者 |
江尻 桂子 茨城キリスト教大学, 文学部, 教授 (80320620)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ひとり親 / 母子世帯 / 知的障害 / 障害児 / 健康 / 精神的健康 / 貧困 / メンタルヘルス |
研究実績の概要 |
近年、我が国ではひとり親世帯が増加しており、これらの家庭における相対的貧困や健康状態の悪化が懸念されている。いっぽう、障害児を育てる世帯においても、一定の割合でひとり親世帯が存在しており、とりわけ母子世帯において生活上の困難が生じていることが海外では報告されている。しかし我が国では、この問題に取り組んだ実証研究がなく、ひとり親世帯で障害児を育てる母親の生活状況について基礎データが示されていない状態にある。 以上の問題意識のもと、本研究では、知的障害をもつ児童・生徒の母親210名から得た質問紙調査のデータをもとに、ひとり親で障害児を育てる母親の社会・経済状況および健康状態について分析した。その結果、ひとり親の母親は、両親世帯の母親に比べて、就労率は高いものの、経済的には厳しい状況にあることが明らかとなった。また、ひとり親世帯・両親世帯いずれの母親も、同年齢の一般女性に比べて精神的健康度が低いことが明らかとなった。以上をふまえ、これらの母親に対してより一層の経済的支援や健康面での支援が必要であることが示された。 障害児を育てるひとり親世帯の母親の社会経済状況や健康状態について実証データをもとに明らかにした研究は、本研究が初めてであり、その意味で、上記の研究成果は意義深い。これらの成果について、これまで国内誌で英語論文として発表するとともに(令和2年度)、国際心理学会にて口頭発表を行った(令和3年度)。今年度は、レビュー論文(和文)を国内誌に発表するとともに、英国心理学会にて招待講演を行った(令和4年度)。現在、上記で報告した、障害児を育てる母子世帯の母親の状況が、我が国特有の現象であるのか、それとも他国でも同様にみられるのかを明らかにするため、システマティック・レビューによる文献研究を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、障害児を育てる母子世帯における社会・経済状況や健康状態を明らかにし、今後の支援に向けての基礎的資料を提供しようとするものである。当初の計画では、障害児の母親を対象に、質問紙および面接調査を実施することで上記を検討する予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大により、調査協力を予定していた学校の休校や、行動制限などにより、調査が実施できない状況が続いた。また、国際学会への現地発表も行うことができず、オンラインでの発表となった。 以上をふまえ、本研究では当初予定していた研究手法を代替する手法として、障害児の母親を対象とした質問紙調査のデータをもとに、母子世帯の母親と、両親世帯の母親における、社会経済状況および健康状態の比較を行った。そして、母子世帯の母親がいわゆるワーキングプアの状況にあること、精神的健康度も一般女性に比べて低いことを明らかにした。これらの成果発表として、令和2年度は国内誌に英語論文を発表、令和3年度は国際心理学会にて口頭発表を行った。また令和4年度は、国内誌にレビュー論文(和文)を発表するとともに、英国心理学会(BPS)発達部門において招待講演を行った。現在は、この領域の過去20年分の英語論文(査読付き国際誌)を総覧し、システマティック・レビューの手法を用いて文献の整理・分析を行っている最中である。 以上に述べたように、新型コロナ感染症拡大の影響により、当初の計画通りの手法ではないものの、いくつかの代替手法により、研究目的は達成しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、障害児の母親を対象とした質問紙調査の分析をもとに、母子世帯の母親は、両親世帯の母親に比べて、就労率が高いことを明らかにした。しかし、この結果の解釈には注意が必要であり、他国の研究報告を見ると、母子世帯の母親は「配偶者の協力がないため就労率は下がる」という知見もあれば、本研究と同様「経済的な必要に迫られ、就労率が高くなる」との報告もある。また、健康状態についても、母子世帯の母親の方が悪いとの報告もあれば、本研究のように、両親世帯の母親と変わらないという報告もある。おそらくそこには、社会文化的な背景―母子世帯へのフォーマルなサポート(経済的支援・福祉サービスの有無)や、インフォーマルなサポート(祖父母の支援の有無など)―が深く関与しているのであろう。 以上の問題を検討するため、本研究では現在、システマティック・レビューによる文献研究を進めている。これらをもとに、障害児を育てる母親(ひとり親および両親世帯の母親)の社会・経済状況や健康状態について、何が共通して言えることであり、何が社会文化的背景の違いによって異なる部分であるのかを明らかにしたい。以上の文献研究により、本研究で得た研究成果に対する理論的な裏付けを行うことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度は、現地での発表を予定していた英国心理学会発達部門について、国内の新型コロナウイルスに対する政府の水際対策をふまえ、オンラインでの発表となった。それにより、当初予定していた海外出張旅費を使用しなかった。 また、予定していた障害児の母親に対する質問紙・面接調査についても、引き続き感染状況の影響で、その実施を見送ったため、調査費用(人件費や謝金等)が使用されなかった。 現在、調査に代わるものとして、システマティック・レビューによる文献研究を行っていることから、データベース使用料や、文献複写費用が生じる予定である。また、研究成果を書籍としてまとめている最中であり、それらに対して専門的助言の提供を受ける際には、それに係る旅費や、助言提供者(専門家)への謝金が発生する予定である。
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