研究実績の概要 |
2021年度には新たに27名分の唾液検体を回収することができた(有効数22名)。本年度はおもに,産後1・6か月の母子を対象に母親の唾液内オキシトシン(OT)の分泌量と母子の行動観察による社会的関係性指標(かかわり指標)得点の関連について精査した。産後1・6か月の母親のOT分泌量の平均値の比較を行った結果, 産後6か月時点において分泌量が有意に低下していた。また,産後1か月時点で子どもの主体性発達と母親のOT分泌量に負の相関がみられたが,産後6か月時点ではかかわり指標いずれの領域においても相関は見られなかった。OTは母親の出産時に最も高値を示し,その後減少することが報告されている(小川ら,1978)。OT分泌量が多い産後1か月時点の養育者は子どもとの交流が活発になりやすいが, 産後6か月時点で分泌量が低下したことにより,OTの影響が小さくなったことが一因と考えられる。産後1か月の子どもの主体性発達と母親のOT分泌量に負の相関がみられたことについては, OT分泌の多い母親は子どもとよくかかわるため, 子どもの主体性が行動として現れにくかったという可能性が考えられるが, 乳児期は親子間の豊富な交流が重要な時期であることや, 主体性の発達がみられるにはまだ早い月齢であることから必ずしもネガティブな結果とはいえず,慎重な考察が必要である。Miura et al.(2015)によると産後18~48か月の母親のOTと主体性発達への配慮・応答性発達への配慮に負の相関がみられた。産後18か月以降は仲間との交流も増え,子どもの共感性や主体性が発達する時期である。親のOT濃度の高さが示唆する保護の多さは子どもの主体的・応答的な行動の機会を阻害するのかもしれない。これまでの研究ではOT分泌量が多いことは親子の相互交流の豊かさを表す指標であるとされてきたが, 今後はネガティブな影響に関する側面にも注目して分析を進める。
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