本年度は、被爆地に居住していない原爆被害者の方々の人生や心の支え、体験を語ることの意義や戦争体験の継承の工夫に関する面談調査を行った。また、継承を検討するにあたり、戦災や事故を伝える資料館を軸に博物館の伝え方やスタッフの思いを調査した。 その結果、戦争を体験していない世代が話を聴くことを前提に、相手の年齢、戦争や平和に対する意識の有無、語る場を考慮し、真剣に聴き続け、少しでも心に残り、自分事に考えてくれることを考え、扱う話題を各自選択していた。 研究期間を通じて明確になったのは、被爆地以外の生活者として被爆者であることを長年語らない者が多く、人生後期になって伝承活動をしている人が多かった。被爆地以外での伝承活動については、語らずして人生を終えていいかという思いや生き証人として語る使命という意識、伝えないと、恒久平和につながらないという思いや、自分にできる恩返し、役に立ちたい、被爆地以外だからより大切という思いがあった。 誰しもが戦争を知らない世代への伝承の困難さを抱えており、悲惨な話や画像を出しながら情緒的に伝える部分を置き、聴取者が意識しやすい話題を加えていた。例えば、被爆稲の遺伝的影響のような科学的知識の援用や食糧依存度が高い日本が現在戦争をしたらどうなるか等、問いかけを交えて話す工夫をされている人もいた。また戦後アメリカ全州を訪問し、第二次世界大戦時、日本がいかに敵国を知らずに戦争していたかを思い知った話を交えて、冷静に世間を見る目をもつことの大切さを伝えたり、戦後の生活の苦労で感じた心の傷をもとに、望ましい行動や物事の考え方の教訓を伝え、平和の尊さなどメッセージを残すなど、人生の内面を伝える工夫をしており、自分にしか語れないという強固な思いがあった。戦災博物館の展示は多種多様で、近年伝承体験コーナーやボランティアガイドが採用され、体験に肉薄した伝承が増えてきた。
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