研究課題/領域番号 |
20K03415
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
成瀬 九美 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (90193581)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自己身体認知 / 生体力学的制限 / 棒回転課題 / メンタルローテーション課題 |
研究実績の概要 |
研究3年目はこれまでに実施した棒回転課題(棒を握り前額面で回転操作する)とメンタルローテーション(MR)課題(手足・裏表の4刺激,60°ごとの6角度,左右の12種類)のデータを分析した. 棒回転課題では自らが棒を把握操作して任意の回転幅を作る.連続条件(停止回数任意,20秒間)の中盤過ぎから棒を停止する動作が不明瞭になるケースが観察され,遂行破綻は右回転135(-315)度,左回転225(-45)度付近の停止が契機となり生じていた.前腕可動域の制限を受け腕の捻じれが強まっていく感覚をもとに適度な角度で棒を停止し握りなおす必要があるが身体感覚情報が活用できていない.一周条件(1周回転で2回停止)の右回転(右手使用)と左回転(左手使用)の遂行方略が異なった.利き手操作による右回転に,2回転目をSSC(Start-States-Comfort,開始時に快適な把握手),3回転目をESC(End-States-Comfort,終了時に快適な把握手)が観察されたことから,幼児期ではモノの把握操作経験が自己の身体認知に影響していると考えられる. 身体部位写真を用いたMR課題では0°を中心とする左右角度が視覚的,運動的に馴染みのある刺激呈示であるのに対して, 180度を中心とする左右角度は運動学的に馴染みのない刺激呈示となる.MR操作には視覚的・外部的に操作する処理方法と筋感覚的・自己的に操作する処理方法が協調しているが,手掌や足裏刺激および180度を中心とする左右3角度(120,180,240)に対する3年生と4年生の正答率が低学年よりも高いことから,この時期に身体部位を客体化したイメージ処理が可能になり身体認知を促進すると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究2年目夏以降にコロナ感染状況の落ち着きがみられたため,学校園の学習・保育環境の保全を最優先してデータ収集の方法を見直し,日程調整ののち測定を行った.研究3年目は研究知見を関連学会で報告した.棒把握課題や調査用紙を用いたMR課題に関心が寄せられ,棒把握課題の遂行が外部環境を予測して自己身体を調整していく先読み能力と関連がある点や小学校中学年の段階で身体認知の変容がみられる点について意見交換を行った.進捗状況が当初計画よりも遅れており総合考察に到らなかったため,研究期間を1年間延長した.
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今後の研究の推進方策 |
視覚や聴覚,触覚などを複合した模倣体験型ゲームはバーチャルな視覚情報から新奇な身体感覚を味わう体験や,アバターという架空の存在に自己意思を投影させ操る体験を提供する.コロナ禍を経て,オンラインコミュニケーションツールやゲームツールが,より一層,我々の生活に浸透している.この種のゲームの時空間に長期的に身体が馴染むことによって視覚情報と自己受容感覚の随伴関係に自らが気づく機会が失われていくことも懸念される.本研究は,児童期を対象とし,複数の運動・認知課題を用いて,自己身体認知の発達と他者への共感の深まりを検討することを目的としている.本研究のこれまでの知見を社会に還元するために,最終年度は児童期のこころやからだの専門家(臨床心理士,精神保健福祉士など)の協力も得て,収集したデータに対して多角的かつ総合的な検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により研究活動が制限されたため,研究1年間は協力先(学校園)に出向いた実験/調査を行うことができなかった.2年目以降、ワクチン接種が進み,研究実施者(測定補助の学生含む)も接種済みとなったこと,また,コロナ感染状況の落ち着きがみられたことから,データ収集の方法を一部見直し実験/調査に着手できたが当初計画よりも進捗が遅れており,研究期間を1年延長したため.
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